2015年9月号 BUSINESS
金融庁の意向を受けて地銀再編の機運が高まる中、「次なる再編」の主役に栃木県の足利銀行が浮上している。仕掛けているのは、足銀の親会社である足利ホールディングス(HD)筆頭株主の野村HD。投資案件で最後までシコっていた足銀を、遂にイグジットできる千載一遇のチャンスが巡ってきた。
2003年に経営破綻した足銀を野村HDが買収したのは08年7月。当初は3年後をメドに再上場し、早期に売却する目論見だったが、買収直後のリーマン・ショックでその目論見が瓦解。
13年12月にようやく再上場を果たすが、金融庁の要請もあって、調達した資金を最優先課題だった優先株の償却に充当できるよう、新株発行だけを行い、野村HDの保有株式はそのまま。その際の希薄化によって、野村HDの保有比率が46%から現在の37%に低下した。
だが、野村HDにとってショックだったのは、「保有株式を売り出せなかったことよりも、再上場の初値が451円にとどまったこと」(野村HD関係者)だ。野村HDが株式売却によって投資額を回収するには、株価が買収価格の1株500円(株式分割後ベース)を上回っている必要がある。しかし、足利HDの株価は一時的に500円を越す局面があったものの、300~400円台で低迷。投資額を回収できない投資案件は「失敗」を意味するため、再上場後も株式売却の絵を描けないでいた。
ところが今春、外国人投資家が日本の銀行株に関心を寄せたことで状況が好転する。足利HDの株価も4月に500円台を突破、その後も500円台を維持している。とはいえ、安閑としてはいられない。地銀株は「今がピーク」と見られるからだ。
地銀の業績は、一過性の市場関連収益や倒産の抑制によって表向きは好決算のように見えるが、ゼロ金利政策や競争激化のもと本業の預貸金利回りが大幅に悪化。「再び倒産が増え始めたら地銀の経営は立ち行かなくなる」と指摘されており、金融庁も7月に発表した金融モニタリングレポートで「18年3月期には2割程度の地銀の経常利益が現状の半分以下に低下する」と警鐘を鳴らし、騒然となった。中期的には人口減少に伴う預金減少なども懸念され、野村HD幹部は「今のうちに再編に絡めてどこかに(株式を)引き取ってもらいたい」と打ち明ける。
その足銀の買収に触手を伸ばしていると伝えられているのが茨城県の常陽銀行だ。常陽銀は資金量7.7兆円を誇る地銀界5位の有力銀行。ところが、その地位を脅かす地銀連合が来年4月に誕生する。横浜銀行と東日本銀行の統合だ。両行は他の地銀もグループに取り込んでいきたいと公言しており、足銀が合流するようなことになれば常陽銀は周囲を敵に囲まれることになる。常陽銀は今年6月まで地方銀行協会の会長を務めていたため地銀再編には乗り出しづらかったが、今はその制約もない。関係者によれば、常陽銀の寺門一義頭取と足利HDの松下正直社長が密会を重ねており、統合話を協議している可能性がある。2行が統合すると資金量は合算で13兆円になり、現在首位のふくおかフィナンシャルグループを抜き、トップに立つ横浜銀・東日本銀グループの14.1兆円に肉薄する。もう一つ巨大地銀グループが誕生しそうだ。