イクメン課長が「消費者庁暴走」の元凶

産業界が猛反発しても、訪問販売と電話セールスをストップさせる過剰規制で「アベノミクス」をぶっ潰す!

2015年7月号 BUSINESS

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消費者庁が安倍晋三政権の経済政策、アベノミクス潰しに暴走し始めた。消費者被害防止を名目に、訪問販売や電話勧誘販売を事実上ストップさせる過剰な規制を検討しているからだ。これでは個人消費拡大や雇用増をテコにした経済再生の足を引っ張りかねず、「アベノミクスの風を全国津々浦々に届けたい」とアピールする安倍首相の逆鱗に触れそうである。

日弁連、消費者団体と結託

山田正人氏の著書

消費者庁と消費者委員会が検討しているのは、訪問販売などのルールを定めた特定商取引法(特商法)の見直しだ。高齢者などの被害が多い悪質商法の防止策を狙っている。今夏にも方針をまとめ、来年の通常国会に改正法案を提出する計画という。

消費者委員会に設置された特定商取引法専門調査会(座長・後藤巻則早大大学院教授)が具体策を審議中で、学者や弁護士、消費者団体、日本訪問販売協会、日本通信販売協会、経団連、日本商工会議所、マスコミの関係者がメンバーだ。

専門調査会ではすでに、被害が増えている権利販売や美容医療サービスを新たに規制対象とするほか、行政処分を受けた悪質業者が別の会社をすぐに立ち上げて次々と高齢者たちを食い物にする手口を使えなくするための執行強化方針で一致した。

こうした対策には誰も異論はなさそうだが、焦点に浮上してきたのが、悪質業者だけでなく健全業者も含め、訪問販売や電話勧誘販売が実質的にできなくなるよう、規制を大幅に強化する消費者庁案である。

具体的には、消費者が玄関先に訪問販売お断りのステッカーを貼り、消費者が「勧誘を受けても良い」と登録した業者だけが訪問できるオプトイン規制のほか、消費者が「勧誘を受けない」と登録した業者は訪問できなくなるオプトアウト規制などの不招請勧誘禁止案だ。

電話勧誘販売でも消費者が「電話をかけて欲しくない」と登録する外国並みの「Do Not Call Registry」を例示した。多くの業者がセールス電話をかけられなくなることが見込まれる。

専門調査会では、消費者団体代表や弁護士らが消費者庁案を支持する一方、産業界の代表が「過剰規制では商売ができず、死活問題」「悪質業者とともに健全業者も一網打尽に排除することになる」などと猛反発し、議論は平行線である。

法改正の根拠として消費者庁が示した消費者相談件数などの統計の中に、特商法の適用除外である保険、不動産やNHK、ケーブルテレビなどの件数も混在していることが判明した。適用除外分のトラブルを不問にしたまま、特商法で所管する訪問販売や通信業者だけを狙い撃ちにする規制案には、「立法根拠が乏しい」という声がある。

産業界の反発にもかかわらず、一連の規制強化案を主導して意気軒昂なのが、経産省出身の山田正人消費者庁取引対策課長だ。キャリア官僚として育休を1年間取得し、『経産省の山田課長補佐、ただいま育休中』という本を書いた異色のイクメン官僚である。

特商法は、産業振興を担当する経産省と消費者行政の司令塔を担う消費者庁の共管で、法律の改正や執行で互いに連携する。しかし、山田氏の抜擢は当てが外れたようだ。

消費者委員会は、消費者の権利を強く主張する日本弁護士連合会幹部らが加わり、日弁連の色彩が濃い。消費者庁内にも消費者問題が専門の任期付弁護士が勤務する。日弁連は「不招請勧誘禁止」を主張しており、山田課長が日弁連や消費者団体と結束してアンチビジネスの規制強化に突っ走る構図と言える。

産業競争力を強化して日本の稼ぐ力を創出し、地方活性化のローカルアベノミクスに全力を挙げる宮沢洋一経済産業相ら経産省幹部にとって、山田氏の豹変は想定外だったらしい。

総務省、農林水産省、国土交通省、金融庁など他省庁も、山田流の過剰な規制がそれぞれの所管業界に飛び火しかねないと警戒し始めている。

消費者庁は火だるまか

2009年に発足した消費者庁は寄せ集め組織で、板東久美子長官は文部科学省出身だ。川口康裕次長と、山田課長の上司としてコンビを組む服部高明審議官は旧経済企画庁出身である。課長以下にも各省庁の官僚が並ぶが、山田・服部スクラムで専門調査会を意図的に動かし、日弁連がサポートしている。

ただ、消費者庁案は生煮えだ。

訪問販売や電話勧誘販売で「勧誘を受けたくない」とか「電話をかけて欲しくない」と登録する案では、消費者がどこにどのように登録するのか不明だ。消費者があらゆる業種や業者を登録すれば、販売実績のある馴染みの業者でさえも訪問できず、電話もかけられなくなる。

消費者には特商法の対象業種と適用除外の違いは分かりにくい。ステッカーが「出入り禁止の印籠」として使われ、訪問販売員や新聞販売員などのほか、特商法対象外の不動産販売員、車のディーラー、NHK受信料の集金人、保険販売員などもシャットアウトされそうだ。肝心の悪質業者を食い止める効果は未知数なのに、業者を幅広く萎縮させ、倒産や失業が増える事態が現実味を帯びてくる。

安倍政権は中小企業やベンチャー企業育成を重視し、地方創生の柱と位置付けるが、中小企業なども家庭訪問や電話勧誘ができなくなるだろう。

一方、消費者が登録したリストが「カモリスト」として悪質業者に流出する恐れがある。日本年金機構で個人情報が大量流出したばかりなのに、消費者庁は登録リストの個人情報保護策に明確な説明を避けている。

山口俊一消費者担当相は沖縄北方、IT(情報通信)、科学技術、宇宙も兼務し、消費者行政の比重は軽い。派閥のドン、麻生太郎副総理・財務相が消費税率10%実現へ、景気重視の旗を振る中、役人の尻馬に乗り、消費に打撃を与える過剰規制で親分に弓を弾くのかどうか。

首相は成長戦略第3弾をまとめ、経済再生に不退転の決意を表明する。経済の好循環を狂わせる消費者庁のKY政策が、首相や甘利明経済再生相らから問題視されるのは必至で、来夏の参院選を前に自民党も重大な関心を寄せる。消費者庁は火だるまを覚悟する必要があろう。

   

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