そごう・西武は「お客様がすべて」 甘やかさない「女性登用」

人気の「おかいものクマダンス」は女性店長会のアイディア。全管理職を女性にした所沢店の売り上げは地方店トップクラス。

2015年4月号 INFORMATION
取材・構成/編集部 上野真理子

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田口邦子執行役員

指導的立場に占める女性の割合を2020年までに30%に――。政府の成長戦略が、企業内でも大きな話題になっている。

古くから女性が働きやすい環境整備に力を入れる百貨店業界では、1997年に大手初の女性店長が有楽町西武(当時)に誕生するなど、他業界に先駆け女性幹部を輩出してきた。その中でも、近年のそごう・西武の実績は際立つ。06年以降に女性登用を本格化。24名の全店長中、現在6名が女性。部長以上の役職にも36名の女性が就く。

田口邦子執行役員もその一人だ。西武池袋本店副店長を経て、現在CSR推進室長、ワークスタイルプロジェクトリーダーとして社内のダイバーシティや仕事の仕方の改革に携わる。入社後間もない1986年の男女雇用機会均等法施行直後にも、旧西武百貨店で女性活用に関わった経験をもつ。

「制度、環境整備、意識など問題のポイントは変わらないが、数値は上がり、仕組みも深まってきた。当時と違うのは身近にロールモデルがいるということ。国の後押しも大きい」と話す田口氏に、同社の取り組みの現状を聞いた。

会議と資料を減らした所沢店

西武所沢店

3月から始めた新PB商品エリアモードには、若手が担当売り場を超えて意見を出し合い開発した所沢店だけのオリジナル商品が並ぶ

そごう・西武の女性登用でひときわ注目されるのは、西武所沢店を女性が運営する店舗にしたことだ。女性店長を据えただけでなく、12年に管理職を全員女性にし、社員の女性比率を9割にした。

3年を経て成果はどうか。田口氏は「女性店長は3代目となり、売り上げ面でも実績を出している。インバウンド等もあり、伸長している都心店に比べ、地方店は都心店ほどの伸びはないが、近年の所沢店の売り上げは地方店のトップクラス」と語る。

何が成果につながったのだろう。要因はいくつかあるようだ。まず女性の視点で商品や売場全体の配置を見直したこと。たとえばインナー売場では体制移行後にスタッフたちが話し合い、女性客が人目を気にせず商品を選べるよう、ソファを置く位置と向きを変更し、滞在時間や売り上げが伸びた。女性同士で距離が近く、職場のコミュニケーションも良好だ。

興味深いのは働き方の変化。以前は会議や資料に時間をかけ、手順をふんで物事を決めていた。無意識のうちに接客は女性、会議や企画書は男性という役割分担があったという。ところが女性店長が就任してから、会議を見直し、必要なものだけを残して半分に減らした。資料はほとんど作らず、店長や管理職が店頭に出て行く。現場で情報端末を見ながら話し、大事な事項は朝礼などで伝える。企画は企画書や決裁の印鑑抜きで直に提案、決定していく。

店長も管理職も現場に足を向け、顧客の声を聞く姿勢が、細かなニーズを拾い上げて数字につながっているようだ。社外の反響も大きく、他社も視察に来る。田口氏は「百貨店は店頭、お客様がすべて。女性はお客様と目線が近く、余計なところにエネルギーや時間を使わなくてもいい環境を作ることができる。何が大事なのか、価値観をあらためて示せたのでは」と分析する。

西武所沢店のインナー売り場。背後の棚で通路からの目が気にならない。ソファは座面の高さも顧客に配慮して選んだ

さらに注目すべきは、所沢店で得られたノウハウを他店でも共有し始めていること。会議や資料の見直しも進めている。

女性店長が6名になった昨年9月には「女性店長会」をスタート。月に一度の通常の全店長会の後、男子禁制で開催している。議事録は作らず、遠慮なくワイワイガヤガヤ。店長会で出た議論をもう一度議論してみると、違う角度からの提案が出てきて企画がふくらむ。それぞれ現場で話をして出た意見も持ち寄り、内容には「説得力、リアリティがある」(田口氏)。

今年の年頭セールでは同社のキャラクター「おかいものクマ」がテレビCMに登場。ダンスを踊る姿が話題になったが、これも女性店長会で出た提案という。全店舗を巻き込んでスタッフらが同じダンスを踊り、映像を動画サイトで流して反響を呼んだ。

広い意味で組織を見直す

男性社員を集めた「イクメンセミナー」の参加率も高い同社。だが世間から見れば何歩も先を行っていても、まだまだ課題はあると田口氏は語る。「係長手前の販売リーダーは女性のほうが多いのに、係長では3分の1に減る。役職はピラミッドなので、課長が増えるにはより多くの係長が必要。組織として絶対数を整える必要がある」

こうした方針を後押しするのが、同社の松本隆社長の深い洞察だ。現場が好きな女性社員から管理職昇進を望まない声が上がることもあるが、松本社長はそれ自体が組織の課題だとの問題意識を持つという。

「小売・百貨店業界はお客様、生活者の視点がないといけない。そのためにもダイバーシティは不可欠。女性登用だけでなく、もっと広い意味で組織や仕事の仕方を見直していく必要があるのです。松本からは、女性を甘やかすつもりはないと言われています」

「働きやすい会社ですか」と問うと、田口氏はほほえみながらこう答えた。

「そうですね。私も周りに支えられて、言いたいことを言い、やりたいことをやってきました。それを許す風土がありますね」

所沢店を訪れると、若手女性スタッフたちが企画を出し合い、話し合って積極的に仕事に取り組む雰囲気が伝わる。今後も田口氏の後に大勢の後輩が続いていくはずだ。

   

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