「強烈パワハラ」で橋下の盟友、中原大阪府教育長が引責辞任。住民投票にも影響必至。
2015年4月号 POLITICS
大学時代の友人、大阪府の教育行政トップの教育長が女性教育委員らへの「パワハラ」で辞職。地下鉄民営化の推進役の大阪市交通局長が「契約偽装」で知人企業に800万円。橋下徹大阪市長の周辺はいったいどうなっているのか。公明党の寝返りで「大阪都構想」が息を吹き返し反転攻勢に余念がない大阪維新の会だが、スキャンダルの連発で勢いは再び急減速。統一地方選で巻き返しの見込みは薄く、「大阪都構想の住民投票」も心もとなくなってきた。
「パワハラ」で辞職した大阪府の中原徹教育長
Jiji Press
強烈なパワハラが表面化した渦中の人物は、中原徹・大阪府教育長(44)。早大時代からの橋下の友人の中原はニューヨークで弁護士暮らしをしていたが、橋下大阪府知事(当時)の公募で府立高の校長に採用され帰国。君が代斉唱に教職員が従っているかの「口元チェック」で名を馳せ、橋下の後任の松井一郎知事が2013年4月、初の民間出身・大阪府教育長に抜擢した。維新の「教育改革」の旗手を演じ「ポスト橋下・松井」の有力候補の一人とみられていた。
中原のパワハラが発覚したのは昨年10月29日。保護者から公募で選ばれた立川さおり教育委員の府教委席上での訴えだ。中原が打ち合わせで、条例改正を巡り異を唱える立川を「目立ちたいだけでしょ。自己満足でしょ。誰のおかげで教育委員でいられると思ってるんですか。知事でしょ。罷免要求しますよ」などと威圧、侮辱したという。泣きじゃくる立川に中原はひるみ「辞職」を口にしたが、橋下・松井は中原を一喝、「続投」を指示し、松井に至っては「組織の決定に従わない立川さんの方が辞めるべき」と言い放ったから、抗議の電話が殺到する騒ぎになった。「大阪都構想」の維新案が府市両議会で否決された直後だけに、橋下・松井は「自公民共が仕掛けた維新潰し」と勘繰り、逆に闘争心を高めたフシもある。だが事態はそんな生易しいものではなかった。
一夜での辞意撤回に府教委は硬化。弁護士3人による第三者委員会が設置され、関係者への聴取が始まった。そして約3カ月後の2月20日、第三者委は生々しい調査結果を公表。立川への中原の暴言をほぼ事実と認定し「パワハラ該当」とした上、職員への凄まじいパワハラの数々を白日の下に曝した。
自分の意見に異論をはさむ職員らを中原は人前で容赦なく吊るし上げる。言葉が汚い。
「精神構造の鑑定を受けないといけない」「一匹いれば同じようなものが何匹もいる。教育センターで研修してもらったらいい」――。
「もうあなたは不必要」に始まり、会議で3時間も「情熱がない」と責められ、レポートを1日で作れと命じられたあげく「ですます調で書いていない。失礼だ」と叱責されるという苛酷なイジメに体調を崩し退職した職員までいた。第三者委は「人権侵害」「違法なパワハラ」と断定。「国を挙げていじめ撲滅に取り組んでいたのではないのか」と教育関係者がうめく。
想像以上の被害の広がりに、野党は罷免を要求。焦点は「中原の進退」に移ったが、松井は「全てが否定されはしない」「反省して教育改革を」と突っ張り、譲らない。しかし野党が「辞職勧告」決議案提出へ動き緊張が高まる中、府議会教育常任委で維新と野党の「教育長のパワハラ」の激論を聞いていた立川が苦しみ始め退席。同情の声が高まり潮目が変わった。府下41市町村の教育長らまでが「毅然とした対応」を要望すると、たまらず府幹部が収拾に動き、遂に中原は辞意表明に追い込まれた。
しかし、この期に及んでも中原は「(第三者委報告には)真実が反映されていない」と不満タラタラ。橋下も「辞める必要はなかった」と擁護する能天気さだ。混乱の責任追及が後を引くのは確実。統一地方選の逆風が強まるのは避けられない。
一方、大阪市でも橋下側近のスキャンダルが起きている。こちらは「カネ」だ。橋下が「市営地下鉄・バス民営化」の切り札として京阪電鉄系の京福電鉄副社長から引き抜いた藤本昌信・大阪市交通局長(59)が、不明朗な随意契約で交通局のカネを知人企業等に流した疑惑で議会の厳しい追及を受けている。藤本のやり口は、交通局幹部だけの審査で「取り巻き企業」の提案に高得点をつけ、随意契約で発注するというもの。こんな露骨な利益分配が横行するのが、「維新政治」の実態なのか。
事態が明るみに出たきっかけは「地下鉄110周年イベント」の発注をめぐる不自然な審査だ。内規違反の「身内だけの審査」を藤本が仕切り、最高得点を得た大手広告代理店・電通が1389万円で受注したが、イベント終了後、審査の前に藤本らと電通が会食していたことが発覚。ここから藤本の京都人脈の画家や知人企業との癒着が次々噴出する。極めつきは800万円の「契約偽装」だ。知人企業の提案に藤本が乗り、地下鉄駅でのイベントの話を進めたが、疑問の声が出て頓挫。補償を求められた藤本は5カ月も遡った契約書をでっち上げ、交通局の予算から支払っていた。捜査当局も関心を示す「やりたい放題」がなぜ通用したのか。闇は深い。
ところで、「大阪都構想の住民投票」をめぐる維新の動きがおかしい。異様なほど「反対論」を市民の目に触れさせないよう頑張っているのだ。都構想の問題点を指摘する藤井聡・京大大学院教授を出演させないよう在阪テレビ各局に文書で圧力をかけ、「自民の反論掲載が気に入らない」と広報紙の発行も一時、差し止めた。住民投票で、公平な情報の下に大阪市民が判断できるか危ぶまれる。
しかし、住民投票の前に、維新は統一地方選を乗り越えねばならない。情勢はどうなのか。在阪記者は「カギは公明の動き。直近の某党の分析をみれば、府議選で公明が『自公協力』を貫くのは間違いない。維新は31の1人区で7勝24敗。全体では、ほぼ半減となる見込みだ。大阪市議選も大幅減。維新が統一地方選で大きく後退すれば、住民投票への影響は避けられない」という。
ヨイショは大好きだが反論は許さない。敵は強烈に叩くが身内には大甘。「身を切る改革」が聞いて呆れる。橋下維新に手痛いしっぺ返しがくる日は近い。
(敬称略)