破局噴火「予言」する異能の医師、石黒耀

2015年4月号 LIFE

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石黒耀氏

科学者は確かな証拠を示さない限り、迂闊なことは言えない。想像で危機を煽るようなことは無論、できない。九州南部には阿蘇、加久藤・小林、姶良、阿多、鬼界と過去に「破局噴火」を起こしたカルデラが五つもある。だが、有史以来の記録はなく、次にいつ噴火するかもわからない。だから多くの火山学者はその危険性に気づきつつ、九州電力・川内原子力発電所の再稼働の是非に口を閉ざしている。

「錦江(鹿児島)湾の海底がだんだん盛り上がっており、(桜島を南淵とした)姶良カルデラが破局噴火する危機は迫っている。(3万年前の)前回と同じ規模なら、火砕流は川内原発まで行く」

こう警鐘を鳴らすのは、火山学者ではない。大阪市内で医師をする傍ら、小説を執筆してきた石黒耀さん(60)だ。13年も前に新燃岳を含む加久藤カルデラの破局噴火をシミュレーションした小説「死都日本」を執筆した。海の上を突き進む火砕流や、その後発生するラハール(土石泥流)のリアルな描写はまるで見てきたかのようで、専門家にも大きな衝撃を与えた。

破局噴火という言葉は、この小説ではじめて使われたとされる。石黒さんは04年には東海地震と東南海地震が連動して起きる小説「震災列島」を出版している。当時はまだ、東海地震が単独で発生すると考えられていた。そうした常識を覆し、超高層ビルが長周期地震動で大きく傾いたり、「黒津波」が押し寄せたりする大災害を「予言」した。東日本大震災を経験した今読んでも、違和感がない。

姶良の破局噴火について九電は、「活動間隔は6万年以上で、十分な時間的余裕がある」と主張する。一方で、前回の破局噴火から33万年経った加久藤や9万年経過した阿蘇は、「破局的噴火を発生させる(マグマの)供給系ではなくなっている可能性がある」と都合のよい解釈をしている。

石黒さんは「阿蘇カルデラはほとんど前兆がないまま大爆発しかねない」と見ている。さらに「たとえ原発が火砕流の直撃を免れても外部電源は止まり、ディーゼル発電機のフィルターはすぐに火山灰で詰まって空気を取り入れられなくなる。原子炉を冷却するための海水の取水口も火山の堆積物で埋まる」と話す。

もちろん、破局噴火が起きれば原発がなくても想像を絶する被害が発生する。姶良の破局噴火で「1時間以内に鹿児島や都城は全滅し100万人ぐらい死ぬだろう」(石黒さん)。長期的には地球規模の気候変動で「農産物の生産が落ち、食糧難になる」(同)。だからといって、原発で被害を倍加させる必要はない。石黒さんのシナリオでは「噴火後24時間以内に川内原発が爆発し、放射能火山灰が日本を覆って、国民の半数が致命的な汚染を受ける」。

問題は、原発が停止していても被害を止められないことだ。川内原発の周辺住民らは、再稼働差し止めを求めて仮処分申請しており、鹿児島地裁は3月中にも決定を下す。もし差し止めが認められても、敷地内には燃料棒や使用済み燃料が残っている。小説では噴火までに燃料棒などを移動させることができたが、「現実には間に合わないだろう」(石黒さん)。日本が経済偏重できたツケを支払わされる時は、近づいている。

   

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