2015年4月号 BUSINESS
「本当に大丈夫なのだろうか」。全国地方銀行協会の会長に6月に就任することが決まった横浜銀行の寺澤辰麿頭取(68)の手腕を危ぶむ声が強まっている。
本誌が2014年7月号で報じたように、寺澤頭取は任期丸4年を迎える今年6月退任するとの見方がもっぱらで、一時は財務省秘書課が後任探しに動き出したと囁かれた。ところが昨年11月に東日本銀行との経営統合を発表し、その勢いで12月に次期地銀協会長に内定した。協会長の任期(15年6月~16年6月)に縛られることから、一転して寺澤頭取の続投が確実視されている。
寺澤頭取はご満悦だが、評判はいまいちだ。まず月に1回開催されている「地銀例会」で躓いた。会長に内定し、本来「業界のドン」として地域金融機関としての理念や目標を語るべき場で、「政策金融における『民業補完』と『相互補完』という用語の使い方だが、私が大蔵省にいた時代には……」などと空気が読めない長広舌に会場はシラけ、臨席した金融庁幹部や地銀頭取を呆れさせた。年功序列の官僚・銀行界において財務省出身の高齢頭取の寺澤には、誰もモノが言えないムードが漂う。
さらなる火種は東日本銀行との経営統合だ。横浜銀行と東日本銀行は16年4月に共同持ち株会社を設立する。この経営統合は、足利銀行との経営統合が破談となった東日本の石井道遠頭取が、国税庁長官の先輩である寺澤に泣きついたとの見方が有力だ。要するに「地銀再編」に取り残された東日本に救いの手を差し伸べたまでだ。経営統合を発表した昨年末以降、横浜銀行の株価の上昇が、東日本銀行より劣っていることが「救済」統合の内実を証明している。
とにかく寺澤の経営手腕を称賛する声はどこからも聞こえてこない。横浜銀行の各ブロックの営業担当者と幹部が営業戦略について膝を突き合わせて意見交換する定例の会で、寺澤は「インフレを誘因する4つの要因についての考察」と題するご立派な演説をぶった。しかし、毎日いかに数字を伸ばすかで四苦八苦している現場の営業マンには退屈なお経にしか聞こえない。
寺澤はコロンビア大使の経験をもとに書いた『ビオレンシアの政治社会史―若き国コロンビアの“悪魔払い”』(アジア経済研究所)がご自慢で、「私の本を買って読みなさい」などと、行員に薦めるそうだから、笑うに笑えない。おまけに「文書の欠点を重箱の隅をつつくように指摘する悪癖があり、大蔵省時代から部下に煙たがれていた」(霞が関)という小役人体質は、民間に天下っても全く変わらない。「教養を鼻にかけ、細かいうえに気難しい。空気が読めない老人だ」と陰口ばかり聞こえてくる。
全国64の地銀の殿様を、お世辞にも「一級品」とは言い難い財務省天下り協会長がうまくまとめていけるのか疑問符がつく。実は、来年度以降の会長行の運営方針はまだ明確に決まっていない。5年ぶりの「天下り協会長」が失敗に終われば、金融庁からの「地銀再編」圧力に揺れる業界の団結力を弱めることにもなりかねない。とはいえ、人材の宝庫である地銀の雄・浜銀は寺澤氏を協会長に祭り上げ、持ち株会社が誕生する16年4月に銀行単体で初のプロパー頭取を目論んでいる節もある。
(敬称略)