2015年3月号
連載
by 宮
原子力規制委員会(原子力規制庁)が入居する超高層の「六本木ファーストビル」(東京・港区)
正面入り口に貼り出された特大の「特別警戒中」が目を引く。受付には民間警備員がいるものの、入退管理のゲート規制は行われていない(撮影/本誌 宮嶋巌)
ちょっとお疲れ(田中俊一委員長)
3・11は原発サイトの弱みを曝け出した。もはや中央制御室を武装占拠するまでもない。内部に潜り込んだ確信犯が非常用電源や配電盤を含む電源・給水システムを破壊すれば、数時間後にメルトダウンが始まるのだ。
発災直後、1Fの作業に携わった約70人の身元が不確かで、うち32人と連絡が取れず、実在しない人物が紛れ込んでいた。主要国では、治安当局の情報を基に犯罪歴、薬物依存、借金などを調べ上げ、テロリストの協力者になる恐れがないか監視しており、「身元不明の作業員」など有り得ない。
内部者による情報漏洩や妨害破壊行為を恐れるIAEAは10年以上前に、原発従事者の身元確認を求める勧告を出したが、日本だけが無視してきた。93年から今日までに国際的に確認された核物質の不正取引は2500件にのぼる。日本でも泊原発の連続不審火など内部者の犯行とみられる事件が起きているが、テロへの危機感は乏しい。原子力規制委員会(NRA)の田中俊一委員長は「『日本は非常に安全』という意識があるからむしろ危ないと、外国人専門家から再三苦言を受ける」と言う。確かに、日本の警備員だけが丸腰だ。
NRAが動き出したのは2年前。核テロに関する有識者会合を開き、電力事業者から元請け、下請けの従業員までを対象とする「身元確認の法制化」を全会一致で打ち出した。ところが、ずるずると後退する。しかも、個人のプライバシーと深く関わる立法論議がなされた形跡はなく、最初から結論は見えていた。そもそも我が国には国防・治安・航空等を横断する身元確認制度がないため、とばっちりを嫌う霞が関がそっぽを向き、潰したのだ。替わりに電力会社が作業員に「自己申告」を求め、身元を確認する仕組みを作るというが、肝心の犯罪歴や薬物依存を調べる手立てはない。仏作ってなんとやらだ。