喫緊の「国内テロ対策」 岡田民主党への期待

谷垣 禎一 氏
自由民主党幹事長

2015年3月号 POLITICS [インタビュー]
聞き手/本誌編集人 宮嶋巌

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谷垣 禎一

谷垣 禎一(たにがき さだかず)

自由民主党幹事長

1945年生まれ。東大法卒。弁護士を経て83年衆院初当選(京都5区、連続当選12回)。財務相、国交相、国家公安委員長、科学技術庁長官などを歴任。3年にわたり野党時代の党総裁を務め、政権復帰を果たす。安倍内閣で法務相を務め、昨年9月より現職。

写真/平尾秀明

――過激派組織「」による残虐非道が繰り返されています。

谷垣 ご家族の悲しみはいかばかりか、お慰めの言葉が浮かびません。我々与党(自民・公明)は「邦人拘束事案対策本部」を設け、「テロに屈しない」という首相の決意を支えてきました。ISILと直接交渉ルートがない政府は、ヨルダン、トルコ政府をはじめ、宗教関係者や有力部族長らに仲介を頼み、人質解放の努力を尽くしてきました。深夜、官邸から緊急電話が入り、与党対策本部の皆さんに集まってもらったこともありました。この半月、最前線で対応された菅官房長官や岸田外相の憔悴は痛々しいほどでした。

――政府・与党は結束して、中東への人道支援を継続する方針ですね。

谷垣 狂信的な武装組織と対峙する穏健なイスラム周辺国を支えなければなりません。今、イラクやシリアの国内避難民や周辺国に逃れた難民は1千万人を超え、我が国の貢献は水や食料の配給や仮設住宅の整備など人道支援が8割以上を占め、その全てが非軍事です。ISILは安倍首相の中東訪問を狙って日本人人質の身代金を要求し、アブドラ・ヨルダン国王の訪米と合わせて空軍パイロットの焼殺ビデオを公開しました。卑劣で人間性のもない。しかも、インターネットを駆使して相手国政府を挑発、攪乱し、国民感情を揺さぶり、国境を越えて過激思想を拡散する手口は狡猾極まるものです。テロ組織の根絶には、国際的な連携が必要であり、我が国が難民の命をつなぐ人道支援を続けるのは当然です。

過激思想に染まった「個別テロ」

――ISILは「日本人がどこにいても殺す」と脅しをかけています。

谷垣 触発された他の過激分子が日本人を狙うかもしれず、テロの脅威は新たな段階に入ったと見るべきです。政府は在留邦人の安全確保に「万全を期す」ため、手始めに中東地域の日本人学校と24時間のホットラインを設けました。

国内テロ対策も喫緊の課題です。政府はテロリストの入国を防ぐため、入国審査などの「水際対策」を徹底し、空港、新幹線、原子力発電所などの重要施設の警備強化を打ち出しました。一方、警察当局は過激化した個人によるテロを警戒し、爆発物の原料などを扱う事業者と連携して、不審者情報の収集を強化しています。仏紙襲撃事件は過激思想に染まった個別テロであり、オーストラリアではISILに感化された男による人質殺害が発生しているからです。来年は日本で主要国サミット、2​0​1​9年にはラグビー・ワールドカップ、20年には東京五輪が開かれます。日本では過激思想に共鳴した集団組織テロが起こる可能性は低いとはいえ、個別テロへの備えは必要です。

――日本国憲法は「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」を前提にしていますが、もはや時代にそぐわないですね。

谷垣 自主憲法の制定は自民党の使命であり、私が野党の総裁時代に憲法改正草案を作成した経緯があります。昨年、改正国民投票法(投票年齢18歳以上)が成立し、改憲案が国会で発議されれば、国民投票が行えるようになりました。とはいえ、国会発議に必要な衆参両院で3分の2以上の賛成を得なければならず、そのハードルは高い。国会も国民も改憲は初めてですから、どの部分から改めるのか、いっぺんに全部を議論するのは難しい。ここに抜けがある、時代遅れになっていると、多くの政党の賛同を得られる項目からやるのが現実的だと思います。

――自民党は衆院憲法審査会で「環境権」「緊急事態条項」「財政規律条項」の創設を論点とする提案をしています。

谷垣 初めての改憲で躓いたら元も子もありません。皆さんが時代にそぐわない、ここは欠けていると思っている部分から作り替えていく。まずは「加憲」から議論を始めたらよいと思います。

与党を経験した「野党の舵取り」

――副総理、外相を歴任した岡田克也氏が民主党の新代表になりました。

谷垣 昨年末の衆院選で民主党前代表の海江田万里さんが落選し、野党第一党の重みは感じられませんでした。

――民主党の信頼回復は遠いですね。

谷垣 振り返ってみますと、民主党は非自民勢力を結集して政権交代を実現したけれど、理念や基本政策は生煮えでした。個々の政策の土台となる明確な理念がないため、いくら議論を重ねても結論が出ません。私が言うのは少し傲慢かもしれませんが、民主党の挫折は政権担当能力の未熟さ、スキルとノウハウの不足が大きかったと思います。岡田さんは政権の中枢を担った方であり、「原理主義者」と言われるほどまじめな人で、ポピュリズムの誘惑に駆られることなく、民主党のアイデンティティを確立するのに、最適な方が代表に選ばれたと思います。

――「与党を経験した野党の舵取りは難しい」と、よく仰ってますね。

谷垣 政権与党の問題点を追及し、戦いを挑まなければ野党として魅力がない。しかし、常に拳を振り上げていればよいかといえば、与党を経験した野党のトップは、そうはいかないのです。

あの大震災の直後、民主党から大連立の呼びかけがあったら受けざるを得ないと考えていました。ところが3月19日、菅総理から副総理としての入閣要請を受けた私は蹴ってしまいます。「菅さんの下で何ができる?」と疑念が湧いたからです。しかし、日本の政治がもっと成熟していたら、挙国一致で国難に臨むべきだったかもしれません。その3カ月後の6月、私は菅総理に内閣不信任案を突きつけます。すると、ある方から「この国難に与党も野党もない。何を考えているのか!」と叱責を受け、返す言葉もありませんでした。あの時の二つの私の判断はどうだったのか――。与党を経験した野党の舵取りは難しいと痛感しました。

3年3カ月とはいえ政権を担った民主党にはスキルとノウハウが蓄積されました。それは国民から授かった民主党の宝物です。民主党は何を反省し、どう変わるのか――。岡田さんには民主党を立て直し、与党と切磋琢磨して、政権交代が可能な政治状況を作る責任があると思います。

   

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