巨象ゆうちょを上回る「社会インフラ」を築く

二子石 謙輔 氏
セブン銀行社長

2015年2月号 DEEP [インタビュー]
聞き手/本誌編集委員 藤井一

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二子石 謙輔

二子石 謙輔(ふたごいし けんすけ)

セブン銀行社長

1952年熊本県出身。東京大学法学部を卒業後、三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入社。秘書室秘書役、リテール企画部長等を経て、2003年に自らが設立準備に関わってきたアイワイバンク銀行(現セブン銀行)に転じる。10年6月より代表取締役社長。

写真/門間新弥

――セブン銀行のATM設置台数が2万台を突破しました。断トツを誇るゆうちょ銀行(約2万7千台)の背中が見えてきましたね。

二子石 数で競うという意識はそもそもないのですけれど、仮に年間1​5​0​0台の純増ペースを維持できるとすれば、1​5​0​0台×5年で7​5​0​0台。あと5年でゆうちょを上回る計算にはなりますね。ちょうど東京オリンピックの年です。

――4期連続増収増益がほぼ確実となり、ROE(株主資本利益率)も14.61%とケタ違いの水準です。安定成長、高収益の背景は?

二子石 ATMサービスが事業の柱となっているので、好不況に左右されることがありません。貸し倒れリスクもないから、安定的収益が得られる。加えて、約2万台のうち1万7千台強が全国のセブンイレブンに設置されています。セブンイレブンがなければ場所代だけでも膨大なものにつくところですが、コストを低く抑えて設置、運営管理できる。この強みは大きいですね。

オリンピック特需がやってくる

――ATM設置の余地はまだありますか。

二子石 セブンイレブンに限ったとしても新規出店等に伴う設置が年間1​2​0​0台程度あります。セブン&アイホールディングス傘下のデニーズ、ヨークベニマルなども加えれば、グループ内の設置余地だけでも相当に大きい。

もちろん、グループ外設置も加速させていきます。鉄道駅、空港、高速道路のサービスエリア、アウトレットモールなどの流通施設。こういった場所のATM設置需要はまだまだある。

円安で海外からの観光客が増えているし、先ほど話にも出た東京オリンピックに向かってさらに増える。観光客におかねを落としてもらわなければならないのだけれど、そのおかねをどこでおろすのかという話です。

セブン銀行のATMは2​0​0​7年から海外のキャッシュカード、クレジットカードに対応しておりまして、当初はなかなか認知が進まなかったのだけれど、ここに来て利用件数が増えてきた。14年度は約3​0​0万件を上回る見込みで、この3年で2倍以上に伸びています。

風が吹いてきた、という印象ですね。この風に乗って、空高く凧を上げたいなと思っています。

――なるほど、これは東京オリンピック特需になりそうですね。

二子石 たとえば、2​0​1​3年6月には十六銀行高山駅前支店(岐阜県)にセブン銀行のATMを1台入れていただいたんです。そのときの記者会見で当時の堀江(博海)頭取がおっしゃったように「銀行の支店内に他行のATMを設置するのは画期的」なことなのです。

なぜ、十六銀行がかくの如き英断を下されたのかといえば、高山市を訪れる外国人が増えたから。どこで円をおろせるのか、と尋ねられてもホテルも旅館も案内しようがない。

海外カード対応の手間やコストを考えれば、セブン銀行のATMを導入したほうが早いというお考えで、こういう動きは東京オリンピックに向けてますます増えるでしょう。当社は銀行でありながら貸出、法人取引は手がけていないので、他の銀行のコンペティターとはなりえない。ですから、他の銀行さんとの共存共栄をはかりながら、新しい社会ニーズに応えていきたいと考えています。

――ATM利用者だけでなく、銀行も「お客さま」ということですね。

二子石 昨年には当社の事務センターを分離独立させ、バンク・ビジネスファクトリーという子会社を設立しました。この会社はセブン銀行のみならず、他の銀行の事務を低コストで受託します。他の銀行と競合せず、しかも等距離でお付き合いできるというユニークなポジションを活かしていきたい。

よく「最大の競争相手はどこか」と聞かれるのですが、答えようがないのです。SMAPの歌じゃないけれど、ナンバーワンではなくオンリーワンだと思う。

ATMビジネスは国境を越える

――大手都市銀行(旧UFJ銀行)から流通に転身されたわけですが、当初は戸惑いもあったのでは?

二子石 早々に現場研修がありまして、セブンイレブンではレジ打ちもやったし、床を磨くポリッシャーに振り回されました(笑)。ヨーカドーでは紳士服売場でメジャーを首にぶらさげて採寸したりもしました。戸惑いではなく、むしろ得るところが大きかったですね。セブンイレブンにATMを置かせてもらい、それをお客さんに使っていただくわけだから、まず「現場」そのものを知らなければ話が始まらない。

――しかし、「現場」そのものが大きく変わる可能性もある。

二子石 クレジットカードや電子マネー、ネットバンキングの普及に伴い、決済のあり方が変わってきてしまったし、多様化している。主として「現金をおろす」というATMの役割が未来永劫続くのかという議論は当然出てくる。

現金を使う文化、慣習はなかなかなくならないとは思うけれど、一方で打つべき手は打たねばならない。すでにセブン銀行のATMには、nanaco(セブン&アイグループの電子マネー)のチャージや海外送金の機能もあります。もはや「現金をおろす」ことだけがATMのサービスではありません。

海外からの観光客によるATM利用が急増しているという話をしましたが、海外送金もまた猛烈な勢いで伸びているんですよ。14年度は60万件を超え、2年で3倍になります。

これからの日本は人口が減っていきますから、人手不足を補うために外国からの就労者は増えざるをえません。すると、本国に仕送りするための手段がどうしても必要になる。便利で、手数料が安い海外送金需要は確実に増える。

国境を越えて「便利さ」を感じていただくことが当社の使命であり、競争力の源泉でもある。ATMネットワークという社会インフラ構築は、その数以上に意義があることだと考えています。

   

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