2015年2月号
連載
by M
「希釈廃棄するしかない」と、1Fの窮状を訴える田中俊一委員長(撮影/本誌 宮嶋)
サスケハナ川の中州に建つ米スリーマイル島原発(TMI)がメルトダウンしたのは79年。その11年後に溶け落ちた炉心の回収(99%)を成し遂げたものの、約9千トンのトリチウム汚染水が残った。吸着剤でセシウムやストロンチウムを除去したが、中性子を二つもつ水素の同位体であるトリチウムは、水と同じように振る舞っているので分離できない。米原子力規制委員会(NRC)は構内貯蔵や河川や大気への放出など九つの選択肢を示し、最終的に地元住民は「蒸発」を選んだ。そもそもトリチウムは自然界に存在し、そのβ線エネルギーは弱く、生体濃縮されることもないので、健康への影響は非常に小さい。
NRCが腐心したトリチウム汚染水は河川に放出できる低レベルだったが、住民は川の水を飲んでおり放流には抵抗があった。蒸発させれば降雨となるため、計画的に全量を大気放出するのに10年の歳月がかかった。
昨年末、イチエフに溜(た)まる一方の汚染水を危惧する原子力規制委員会が「液体放射性廃棄物総量の削減」を打ち出した。田中俊一委員長は「まるでタンク製造工場だ。このままでは廃炉が進まない。トリチウムの分離は技術的に難しく、希釈廃棄するしかない」と窮状を訴えた。
昨年末までに1Fに溜まった汚染水は約60万トン。東電は一日も早く7系統の多核種除去設備(ALPS)をフル稼働して、トリチウムを除く62核種を取り除く計画だ。それでもALPS処理水=トリチウム汚染水の大量貯蔵に伴うリスクが残る。しかも、今なお建屋に1日300トンもの地下水が流れ込み、汚染水は増え続けている。ALPS処理水を希釈廃棄しない限り、1Fを埋め尽くす1千基以上のタンク群(総容量80万トン)は満杯となり、果て無きタンク増設を迫られる。TMIは10年かけて蒸発させたが、1Fにそんな余裕はない。