高コストの原発を固定価格で買い取り、電気料金に上乗せ。「再稼働反対」6割の国民が黙っていない。
2014年10月号
DEEP [特別寄稿]
by 嶋 聡(サイバー大学客員教授・元衆議院議員)
原発推進か、再生エネか?
EPA=Jiji
7月31日、小泉、細川両元総理が東京で開かれた「再生可能エネルギー世界展示会」を視察し、私も同行した。
「原発は諦めるしかない。夢のある(再生可能)エネルギーは政治次第でうんと伸びる」
小泉元総理の政治家としての凄さは、物事の本質をつかみ、単純化することである。重要な問題は単純化して、有権者1人1人がコモン・センスに基づいて判断する必要がある。これを専門家と称する人々の「言論プレー」に任せるのは亡国の道だ。
8月21日、経済産業省で開かれた「原子力小委員会」で専門家の言論プレーがあり、「原発の固定価格買い取り」を目論む「原発CfD(差額決済契約制度)」の提案があった。
2016年から電力が自由化され、競争が始まると電気料金は下がる。原発事業は長期にわたり、万一の事故の対応だけでなく、核燃料サイクルと使用済み核燃料の最終処分に莫大な費用がかかる。電力料金が下がったら赤字に陥る可能性がある。
そこで、原発を運営する電力会社が売電する際、あらかじめ「基準価格」を定め、これを下回った場合、差額分を電気料金に上乗せして、消費者から回収する制度を導入する。我が国が学ぶべき先行事例はイギリスにあり、これを「原発CfD」と呼ぶのだ。
かかったコストを電気料金に転嫁するのは当たり前? 霞が関の言論プレーに騙されてはいけない。「原発はクリーンで、効率的で、コストが一番安い」というのが、経産省(原発支持派)の謳い文句だった。11年のコスト検討委員会の試算でも、1kW時当たり原子力は8.9円で、石炭火力9・5円、LNG火力10・7円より安いとされてきた。それが事実だとすれば、電力が自由化されれば、原発は競争力を増し、さらに優位になるはずだった。つまり、原発推進派のCfD導入論は、「原発は安い」という従来の主張と真逆なのだ。小泉元総理の「(原発が)クリーンだ? コストが安い? あれ、全部ウソだとわかってきたんだよ」というのは本当だと、経産省がカブトを脱ぎ、開き直ってしまったのだ。
8月29日の記者会見で、原発の固定価格買い取り制度について問われた茂木経産相は「英国政府からプレゼンテーターを招き、CfDについて聞いただけ。経産省が一つの案に絞って、提案したのではない」と答えたが、これは「言い訳」にすぎない。経産省の目論見は明白。世論を刺激せずに、こっそりと、CfDを導入したいのだ。
新制度を導入する際、霞が関は好んで、外国の先行事例を持ち出す。同じ島国で、日本人が好きな「イギリスでは導入済み」と、喧伝するのだ。しかし、経産省の事務方が白羽の矢を立てた英国エネルギー・気候変動省のクラーク副部長のプレゼンテーションは痛し痒しだった。
英国は化石電源設備の5分の1を閉鎖し、洋上ウィンドファームなどの再生可能エネルギーと原子力エネルギーで代替する計画を立てている。
「再エネや原子力のように、リードタイムが長く初期投資が高い電源にとってCfDは重要。その狙いは価格の不安定性の除去と収益の明確化である」と、クラーク副部長は再生エネルギーと原子力を同列に置く。さらに、「CfDによってコミットされたのは、再生可能エネルギーは最大120億ポンド、4.5GW以上の8つの契約。これに対し、原子力はヒンクリーポイント、サイズウエルの2カ所で160億ポンド、3.2GWである」と述べた。
要するに、英国ではCfDを利用しようとしているのは原子力より再生エネルギーが多いのだ。「(ヒンクリーポイント、サイズウエルの)基準価格は英国にとって最もよいディールであり、再生エネの中で最も競争力のある陸上風力と同じ競争力を持つ」――。英国では再エネが原子力とほぼ同列の競争力があると認められているわけだ。
CfDを導入するには、もちろん詳細な制度設計が必要である。事務方が、英国から専門家を呼んで、「原発CfD」のプレゼンをさせたのは、その導入を視野に入れているからだ。
仮に、単独法を国会に提出したら、「原発延命法」「原発再稼働促進法」と火だるまになるのは見えている。来年9月の自民党総裁選前の解散・総選挙が囁かれ、次期参院選まで残り1年となる来年の通常国会にCfD法案を出す度胸は、原発推進の安倍総理にもないだろう。
思い返せば、小渕優子経産相の亡父、小渕恵三元総理は国会対策の名人だった。重要な法案を目立たせず、「こっそり」通す業(わざ)に長けていた。亡父の顰(ひそみ)に倣うなら、発送電分離の電気事業法の改正に潜り込ませるか、国会審議が不要な政令として、目立たぬように施行するか、そこは腕の見せ所だ。経産省が悪知恵を働かせれば、CfDの導入は十分可能だろう。
国民世論の原発再稼働「反対」は常に6割前後。ところが、永田町は逆である。与党議員は「プロ原発」の首相官邸に逆らえない。下野した民主党で生き残った議員は、大逆風の中で選挙応援してくれた電力総連に足を向けて寝られない。しかも、経産省からすれば与野党議員を懐柔しやすい環境にある。
電気事業法改正の目玉は、近い将来の「発送電分離」だが、電力会社が、それをおいそれと呑むはずはない。原子炉等規制法の「原則40年廃炉」の規制を緩めるバーターで説得する目論見だったが、世論は思いのほか厳しい。そこで、CfDの出番である。「先生、日本の将来を考えたら『発送電分離』が肝です。これを通すために、CfDは呑んで下さい」と、資源エネルギー庁の幹部が「永田町詣で」をする姿が目に浮かぶようだ。
原発から再生エネへの道筋を曲げてはならない。仮に、再生エネルギー固定価格買い取り制度に総量規制などを導入して、原発CfDにシフトしたら、再生エネへの投資は止まる。
「固定価格買い取りで、原発維持か、再生エネか、国民に聞いてみたい」――。小泉さんが現職総理なら、こんな演説をぶって、解散するだろう。