ソーシャルメディアのシェア機能でネズミ算式に拡散。既存メディアも食指を動かす。
2014年4月号 BUSINESS
老舗の新聞や雑誌など紙媒体がどこも電子化の課金(マネタイズ)で四苦八苦しているなかで、ソーシャルメディア(交流サイト)のシェア機能を利用して、爆発的に成長する情報サイトが出てきた。その名も「バイラルメディア(viral media)」。viralとはvirusの形容詞で、「ウイルスのように急速に情報が蔓延する」という意味である。
その仕組みは、フェイスブックやツイッターのユーザーならお馴染みの「シェア」と「リツイート」に乗っかるものだ。気に入ったり、読んで面白かったネットの情報を「友だち」やフォロワーにワンクリックで紹介し、みんなに支持されれば、紹介の輪がネズミ算的に拡散し、情報の発信元のサイトには多くのアクセスが集まる。
バイラルメディアの見分け方は簡単だ。記事の前後にソーシャルメディアにワンクリックでシェアするための大きなボタンがあること。アクセス数の多寡で勝負が決まるウェブサービスにとって、フェイスブックやツイッターの拡散によるアクセス稼ぎは、ソーシャルメディア時代ならではの「戦略」なのだ。
BussFeedのスマホ用サイト(上)とdropoutのパソコン用サイト
これには、フェイスブックの投稿表示用アルゴリズムの変更も一役買っている。フェイスブックは昨年12月、シェアの多いリンク投稿をユーザーのニューフィード内で優先的に掲載するよう仕様を変更した。これにより、シェアされやすい情報は、拡散にさらに拍車がかかる。
アクセスが増え、人気のメディアに成長できれば、お金は後からついて来る。
バイラルメディアの大手、米国のBuzzFeedは、広告による収益が昨年は6千万ドル(約61億円)、今年は1億ドルを見込んでいるとの報道もある。
BuzzFeedと並ぶ大手のUpworthyの場合、マネタイズはこれからだが、昨年11月だけで8700万ユニークユーザー(正味の訪問数)を達成したというだけに、創始者たちは目を輝かせながら胸算用にいそしんでいることだろう。
既成の有名メディアも、このバブルに乗り遅れまいと動き始めた。ワシントンポストは、昨年10月からKnow Moreというバイラルメディアを開始した。わずか2名の記者で運用しているというから、広告モデルによる運用でもビジネスは十分成り立つのであろう。
ただし、バナー広告を表示する従来のやり方を踏襲していたのでは収益を上げることができない。世界的なスマートフォン(スマホ)の普及に伴い、アクセスの多くがスマホによるものだ。そのため大手サイトの多くは、スマホに最適化されたサイトを用意している。ここに広告モデルのジレンマがある。
面積の限られたスマホの画面では、記事とバナー広告を同時に表示することは難しい。サイトによっては画面の上下どちらかに細長いバナー広告が強制表示されることもあるが、ユーザーからすると「ウザッタイ」存在であることは確かだ。
広告モデルで成功しているBuzzFeedの場合、一種の記事広告のスタイルを取り入れている。バナー広告は表示されず、スポンサーからのメッセージは、「Presented by ○○○○」の小さな文字とともに、数多ある記事と区別がつかないような形で表示される。ネイティブ広告と呼ばれる記事体広告だ。
また、Know Moreの場合は、ある程度まで記事を読むと下から別ウィンドウで広告がせり上がってくる。ただ、ユーザーは広告を自由に消すことができる。
バイラルメディアで提供されている情報は、社会的意義の高い硬派なものから、ビジネス・ハイテク系、芸能系、一瞬の笑いを目論んだヒマつぶし系の他愛ないものまで千差万別だ。共通して言えるのは、他人のフンドシで相撲を取るスタイルの記事が主であることだ。
ネット上に星の数ほどある情報(ブログ記事、写真、動画など)から、記者がキュレーション(情報を収集・整理し紹介する)し再掲載の形をとる。ポイントは、いかにもタップ(クリック)を誘いそうな見出しや画像を設定すること。また、スマホを使って隙間の時間に手軽に読めるボリュームでないと読まれない。記者が説明文を付加することもあれば、元の情報からインスパイアされる形でオリジナル度の高い記事に仕立てる場合もある。完全にオリジナルの記事ではないので、少ないスタッフでも運営が可能なのだ。
そんなバイラルメディアのバブルは、日本にも飛び火した。東京都知事選の候補で一躍有名になったネット起業家の家入一真氏が仕掛けるdropoutは、テスト公開した最初の1カ月で70万人のユニークユーザーを獲得し話題になった。一瞬芸的なエンタメ指向のサイトがほとんどの和製バイラルメディアにあって、世界中の動画サイトに掲載されている「考えさせられる動画」をキュレーションし、「刺さるメディア」を目指し、問題提起型のタイトルをつけている。
バイラルメディアは、今後のネットにどのような影響を与えるのだろうか。これまでアクセスを集める手段としてはSEO(検索エンジン最適化)が一般的な手法だった。運営するサイトがグーグルの検索結果の上位に表示されるか否かでアクセス数が大きく異なるからだ。世の中には、SEO対策を専門にする業者が存在するくらいだ。
バイラルメディアへのアクセス流入は、ソーシャルメディア経由の拡散からであり、グーグル検索とはまったく別次元。これまでは、「検索結果」という形で生殺与奪の権をグーグルに握られていたが、その呪縛から解放される時が来たともいえる。
その一方で、支配者がグーグルからフェイスブックに変わっただけで、巨大プラットフォームの手のひらの上に変わりはない。おそらく今年は、国内外を問わず、雨後の竹の子のごとく多数のバイラルメディアが登場するだろう。マネタイズに苦しむ既存メディア系サイトの救世主となるのか、それとも一時の徒花に終わるのか――。