東電福島原発は「テロリストの天国」

人為による「汚染水漏洩事件」が迷宮入り。警察は動かず、規制委員会、経産省も見て見ぬふり。

2014年4月号 BUSINESS

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110トンの汚染水が漏れた「H6エリア」のタンク

またか、で済まされる話ではない。問題なのは量や濃度ではなく、誰かが漏らした、その誰かがわからない、ということだ。

東京電力福島第一原子力発電所内の汚染水貯蔵タンクから、超高濃度の放射能汚染水が漏れ出した。標準家庭の5カ月分の水道使用量に相当する110トンが一気に漏れ、その中にはこれまでで最高の放射性物質(ストロンチウム90濃度で飲料水基準の380万倍!)が含まれていた。

タンクからの汚染水漏れは2月19日午後11時25分頃、巡回中の作業員が見つけた。原因は単純。注水すべき「Eエリア」のタンクではなく、満杯に近かった「H6エリア」のタンクに汚染水が向かってしまったため、タンク上部から汚染水が溢れ、周囲の堰を越えて地中に漏れ出したのだ。

「被害届」を拒む福島県警

東電は当初、注水の流れを仕切る弁(バルブ)が故障したのでは、と説明していた。だが、弁は故障していなかった。

19日の午前10時頃まで汚染水は予定通り「Eエリア」に流れていたのだが、誰かが手動で「E」への弁を閉め、「H6エリア」につながる三つの弁の少なくとも一つを開いたとしか考えられない。

午後2時にはH6タンクが満杯となり、タンクの警報が鳴ったが、目視で異常がなかったため、水位計の故障と判断された。警報が鳴ったのに、19日深夜に巡回で大量の漏水が見つかるまで8時間も異常に気づかないとはあまりにお粗末。新聞やテレビは東電の杜撰な管理をこぞって批判した。

だが、注目すべきはその時の弁の状態だろう。発見直後の20日午前0時過ぎには「H6」の弁は閉じられ、「E」への弁が開いていたことが写真で確認されている。再び何者かが弁を操作し、19日午前の状態に戻したわけだ。

東電は弁の故障という説明を作業ミスだったと改めたが、19日も20日も弁を操作する作業は予定されておらず、弁を開閉した記録もない。操作したのが誰なのかは、半月以上にわたる東電の度重なるヒアリングでも不明のまま。アクリフーズで起きた農薬混入事件のように、待遇に不満を持つ作業員が故意に汚染水を漏らした疑いもある。作業員以外の第三者が原発内に入り込んで「放射能テロ」を仕掛けた可能性もゼロではない。

平和ボケの田中俊一規制委員長

写真/吉川信之

現在、福島第一原発で汚染水処理や廃炉作業に従事している作業員は約5千人。中には放射能の危険性を肝に銘じていない作業員も、労働条件に不満を募らせている作業員もいるだろうが、多くは下請け、孫請けの協力会社の社員で、東電は素性や知識を把握しきれていないのが実情だ。

実は、東電も当初から「弁の故障が原因とは考えにくい」(幹部)と見て、ヒアリングは監査部門が弁護士や警察OBなどのアドバイスも受けながら進めてきた。しかし、度重なる聴取に現場からは「俺たちを犯人扱いするのか」という反発が高まるばかり。困った東電は犯人探しを警察に委ねるべく、福島県警に被害届を出すことを検討したが、県警は受理を拒み続けているという。

もし犯人を見つけられなければ警察の失点になる。余計な火の粉をかぶるのはご免、ということだろう。

日本は原発テロに丸裸

欧米では放射能テロの標的とされる原発は、国が安全保障の観点から軍事施設並みに守っている。厳しい身元確認と個人認証を経ないと原発施設への出入りはできず、それを怠ると施設の周辺を警備する武装警備員に射殺されても文句は言えない。今回の事故は国にとっても一大事。欧米ならすぐさま警察や軍隊が送り込まれるだろう。

ところが日本では、原発の安全を監督する原子力規制委員会が、警察の尻を叩くどころか、警察以上に真相解明に消極的だ。2月26日の規制委の定例会合では元外交官の大島賢三委員が「弁が悪意で操作されたとしたら問題だ」と、欧米の常識に基づいて徹底した原因究明を指摘したのだが、田中俊一委員長は「悪意を前提とした調査で不信が蔓延する職場になれば、安全が守られるはずがない。そこは注意深くやるように東電のトップに厳しく伝えて欲しい」と、むしろ調査の打ち切りを指示しているのだ。

職場に不信感が生まれると安全が守れないから原因究明はするな、とは笑止千万。田中委員長はアクリフーズの農薬混入もJR北海道のレール幅の改ざんも、犯人はうやむやにした方が安全だったのに、と考えているようだ。東電は内々に規制庁に原因究明への協力を求めたが、これでは規制庁が動くわけもない。経済産業省も見て見ぬふり。要するにみんな東電を批判はするが、ともに汗をかく気はさらさらないのである。

「誰か」を特定できないまま、東電は弁に南京錠をつけ、責任者の許可がなければ操作できないようにする再発防止策を発表し、幕引きを図っている。

弁の操作がミスならば、「犯人」の作業員はさぞホッとしているだろうが、その作業員に悪意があれば、もう「次」を考えていてもおかしくない。何しろイチエフは放射能テロを仕掛けても犯人を探さない「テロリスト天国」なのだから。

ニューヨーク・タイムズは「安倍首相が東京五輪の招致にあたって汚染水処理について政府も積極的に関わると宣言したのに、日本政府はいまだに事故処理の大部分を東電に任せきりにしている」と批判した。

オバマ米政権は、米国などが冷戦時代に研究用として日本に提供したプルトニウムの返還を求め、中国政府も「兵器への転用が可能な核物質が日本に存在することは核不拡散における重大なリスクだ」と日本を追及する姿勢を見せている。

そのさなかに「日本の原発は内部脅威に丸腰だ」という事実を世界が知れば、日本の核管理への信頼は地に堕ちるだろう。役人たちよ、いい加減に「平和ボケ」から目を覚ませ。

   

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