「売上高3兆円」に王手!不安の種は「消費税10%」

大野 直竹 氏
大和ハウス工業社長

2014年2月号 BUSINESS [インタビュー]
インタビュアー 本誌 宮嶋巌

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大野 直竹

大野 直竹(おおの なおたけ)

大和ハウス工業社長

1948年愛知県生まれ(65歳)。慶応大学法学部卒業、大和ハウス工業入社。88年新潟支店長、97年横浜支店長、2001年大阪本店長、04年東京支社長。根っからの「営業マン」で、震災直後の11年4月より現職。13年3月期決算で住宅メーカー初の売上高2兆円を達成した。

写真/スタジオコニシ 小西國広

――昨年は歴史的な株高・円安となり、日本全体が明るいムードに変わりました。

大野 デフレ脱却をめざす「アベノミクス」が、長期不況で凍りついた人々の心を溶かし、日本経済は復活のチャンスを摑みました。肝心の成長戦略は迫力不足と言う人もいますが、世の中にはやろうとしてもできないことがたくさんあります。安倍首相は、国民に明確な目標を示し、自らリスクをとって前に進もうとしています。国民心理を明るく前向きにした経済政策は満点以上の出来でした。

――4月から消費税が8%になります。

大野 景気の腰を折ると言う人もいますが、財政再建は国際公約になっており、社会保障費の負担増は避けて通れません。首相の決断は正しいと思います。

「10%増税ありき」は危ない発想

――しかし、1997年の3%から5%への引き上げ時は、新設住宅着工が20万戸も減り、デフレが深刻化しました。

大野 金融危機の真っただ中の前回とは状況が違います。13年度の着工戸数は、駆け込み需要で前年度より10万戸多い100万戸前後になる見込みです。それが来年度は反動減が予想されます。しかし、政府が決めた住宅ローン減税の拡大や給付金制度の効果により、97年のようなどん底にはならないと見ています。むしろ不安の種は、1年半後(15年10月)の10%への引き上げです。もし、可処分所得が上がらないと、この2段階増税は国民心理を冷え込ませ、消費がひどく落ち込む心配がある。政府には慎重にも慎重な検討をお願いしたいものです。そもそも10%増税時には、食料品など生活必需品への軽減税率が導入されますが、果たしてどれほどの税収効果があるのか――。8%後の景気回復が先であり、10%増税ありきの発想は危険だと思います。

――社長就任2年目の13年3月期決算で、売上高2兆円の経営目標を1年前倒しで達成。住宅メーカーとして初の2兆円企業ですから「金メダル」の快挙。

大野 経営者に金メダルとか、ないですよ(笑)。追いかけて、走り続けて、結果を出し続けるのがトップの役目。そこに満足のゆく到達点はありません。1年前倒しの2兆円達成は、震災後の困難期にグループ全社員が一丸となって猛烈に頑張った汗の賜物なんです。

――創業60周年(16年3月期)に向けた新たな中期経営計画を発表しました。2年後に売上高を39%増の2兆8千億円とは、ずいぶん野心的ですね。

大野 いや、2兆8千億円は保守的な計画です。15年秋の消費増税の影響が読めないので慎重になりました。もし、10%増税がなかったら、迷わず3兆円の目標を掲げました。実際、今は多様な収益源を活かした成長加速期であり、社内では「3兆円にするぞ!」とハッパをかけています。売上高だけでなく、16年3月期の最終利益は1千億円を達成したい。

――消費増税で戸建て住宅市場は厳しい。どうやって目標を達成しますか。

大野 当社が得意とする「賃貸住宅」「商業施設」「事業施設」の不動産開発に、3年間で4千億円を投資します。

――一つ目の柱は賃貸住宅ですね。

大野 相続増税(15年1月)を控え、遊休地に賃貸住宅を建設するオーナーが増え、市場は活況を呈しています。我が国の総世帯数は19年にピークを迎えますが、単身世帯数は30年まで増加するため、単身者向け賃貸住宅のニーズが拡大します。当社が発売した女性のためのアイテムを搭載した防犯配慮型賃貸住宅は好評を博しており、中高層物件の請負事業も伸びています。賃貸住宅は確かな成長分野であり、16年3月期の売上高は8千億円(13年3月期の35%増)をめざします。

次に商業施設では、これまでロードサイド店舗やドラッグストアの建設を数多く手掛けてきました。テナント企業の出店ニーズを確実に取り込む土地提案により受注を拡大し、16年3月期の売上高を4250億円(同22%増)に伸ばします。

三つ目の柱の事業施設は、昨年1月に子会社化したゼネコンのフジタとの連携がパワーを発揮する分野です。マルチテナント型の物流施設や病院の建て替え案件が増えており、土地の造成から建物の建設まで再開発案件をグループ内で一括して請け負う体制が整いました。16年3月期の売上高は13年3月期の2・3倍に大幅拡大、6千億円に飛躍させます。

フジタは海外事業の成長エンジン

――海外事業も成長の柱ですね。

大野 創業100周年の2055年に「10兆円企業」になることは、創業者(石橋信夫相談役)が病床にあった晩年、当時社長の樋口(武男・現会長)と交わした「男の約束」なんです。40年後を見据えた目標とはいえ、人口減少の国内だけで売上高10兆円は難しい。国際展開が課題になりますが、当社の13年3月期の海外売上高は100億円に満たない。一方、フジタは、スーパーゼネコンに次ぐ海外事業の歴史と実績を持ち、その第一歩は1932年の満州進出に遡ります。当社はフジタ買収で時間を買い、海外展開の成長エンジンにしたいのです。9カ国17都市に拠点を置くフジタを傘下に収めたことで、我がグループの海外拠点は12カ国29都市に広がり、16年3月期の海外売上高は1千億円以上をめざします。

――建設需要の増加で資材が高騰、人手不足が深刻化しています。

大野 震災復興事業に消費増税前の駆け込み民需が重なり、各地の国土強靭化事業と東京五輪の施設工事が本格化する今年は、人手不足に拍車がかかります。民主党政権時代に公共事業が減り、建設労働者が大量離職、現場の高齢化が進みました(3人に1人が55歳以上)。最近、予定価格では採算が取れない公共事業の入札不調が相次ぎ、外国人労働者の受け入れや未開拓の女性技能労働者の活用が検討されています。建築現場の省力化(工数削減)には、あらかじめ部材を工場で生産、加工し、現場で組み立てるプレハブ工法が有力です。建設労働者不足には技術革新と規制緩和の両面から取り組む必要があり、国を挙げた緊急課題です。

   

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