編集後記

2013年11月号 連載
by 宮

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人材流出に苦しむ東京電力が、3年ぶりに新規採用に踏み切り、来春の卒業予定者331人(うち女性24)に内定を出した。内訳は大卒122人(事務系24、技術系98)、高専卒37人、高卒172人(ともに全て技術系)。約600人の応募があり、筆記試験は行わず、2度の面接で決めた。注目された福島県在住者を対象とする「福島枠」には40人弱の応募があり、大卒13人、高専卒6人、高卒13人の計32人(うち女性4)が内定した。

「面接では、当社への率直な思いを聞きました。ご親族が被災された浜通りの方からも応募があり、被害者が加害者の立場に変わる自己矛盾を抱え込まないか、心配でした。ご両親の反対を押し切って『地元との橋渡しになりたい』と言ってくれた高校生には、胸が熱くなりました……」(面接担当者)。

東電は震災前、毎年約1千人の新規採用を行い、大卒だけで4~5万人の資料請求を受け付け、7千人が試験を受ける人気企業だった。見る影もなくなった「採用サイト」(現在も新卒募集中)には、初任給=大卒・月給20万円程度、高専卒・17万5千円程度とあるがボーナスの記述はない。そのうえ、現在行われている一般職の給料カット20%が、新人にも容赦なく適用されるという。「そんなバカな」と言ったら「3年前の新卒と逆転する」(労務人事部)と切り返された。それでも東大、京大、東工大、早慶大の大学院などで原子力を学んだ「廃炉技術者の卵」、15人を迎えることができたという。40代の本店幹部は「こんなにたくさん集まってくれるなんて正直言って驚きです。実は『福島枠』に応募があるか不安でした」と語る。

震災後、東電を中途退社した職員は1300人を超え、そのうち7割が40歳以下という。廃炉をやり遂げるのは若い新戦力以外にない。初任給をケチって未来を切り拓けるものか。

   

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