立志伝中の創業者が全力投球!
2013年10月号
INFORMATION
取材・構成 編集部 和田紀央
経営に復帰した創業者、池森賢二氏が「ファンケル大学」を創設。次世代経営者と専門性の高い店舗スタッフを輩出し、「ファンケルらしさ」で再成長を目指す!
6月3日の開校式で「人間大好」の書を掲げる池森賢二会長(左)と松ヶ谷明子ファンケル大学学長
今年4月、立志伝中の人であるファンケルの創業者、池森賢二氏(76)が8年ぶりに代表取締役会長として経営に復帰。「創業の原点に立ち返り、ファンケルらしさで再成長を目指す!」と宣言した。ファンケルの創業は1980年。肌トラブルに悩む人々の「不安」を解消したいという創業者の思いから、安心・安全な「無添加化粧品」を誕生させたのが始まりだ。以来、池森会長は「不安」「不満」「不便」などの世の中の「不」のつく事柄をなくすため、サプリメントや青汁、発芽玄米などの事業を拡大してきた。
池森会長が唱えるファンケルらしさとは、第一に「お客さま視点の徹底」であり、創業から33年が経ち組織のタガが緩み、従業員のレベルが下がっていないかという懸念があった。「10倍のスピード経営で3年以内にファンケルらしさを再徹底する」と心に決めた池森会長は3月に組織改編を断行。それと同時に、これまで各部門が担っていた教育機能を集約し、創業理念を継承、発展させていく人材育成の場として「ファンケル大学」の創設を思い立った。
店舗スタッフの「スキンケア研修」
メイク研修中の「ファンケル銀座スクエア」スタッフ
初代学長に抜擢された執行役員の松ケ谷明子氏(50)は、池森会長から「ファンケルらしさの再認識」「次世代経営層の育成」「店舗スタッフの専門知識養成」という三つの課題を託され、大学の教育方針や研修プログラムの作成に取り組んできた。
松ケ谷学長の前職は、大手下着メーカーで5年連続店舗売上№1を達成したカリスマ販売員。スタッフ教育担当として、接客業日本一を競うコンテストで2年連続優勝した実績を持つ。池森会長の著書『社長から社員への手紙』に感銘を受けたのがきっかけで5年前にファンケルに入り、グループ全体で3千人を超える従業員を束ねる人事部長を務めてきた。
「池森イズム」を体現するファンケル大学三つの教育方針は、実にユニークだ。▽お客さまの心に響くホスピタリティを学ぶ「響育」、▽周囲を驚かせる目に見える成長を促す「驚育」、▽従業員が切磋琢磨し、成長し合える関係を築く手助けをする「競育」という「三育」を掲げる。松ケ谷学長は「ファンケル大学は、創業者の『もっと何かできるはず』という強い思いと、『企業に大切にされていない従業員がお客さまを大切にすることはできない』という考えを具現化したものです」と語る。
本店、店舗、職位にかかわらず従業員のレベルアップ、そのための専門教育の強化は、大学にとって待ったなしの課題だ。例えばビューティ部門では皮膚生理学やメイク、美容栄養学などを、また、ヘルス部門では栄養学や運動、医学などの基礎知識を体系的に身につけるためのプログラムを開発し、トレーナーや講師陣を充実させた。次代のファンケルを担う経営層の育成には、創業者自ら壇上に立つ「池森経営塾」を開講する。女性管理職向けの経営や経済全般への理解を深めるプログラムや、部長職を対象に将来の役員候補を育成するプログラムも作成した。「インプット型の『教える』研修と、本人に気づきを与え、主体的に学ぶ機会を提供するアウトプット型の『引き出す』研修のバランスを大切にします。従業員が自らを磨き上げることをバックアップすることが、大学のミッションなのです」(松ケ谷学長)
6月3日に開校した大学本校を訪れた。所在地は、全国各地の店舗スタッフがアクセスしやすい東京・新橋のオフィスビル。エントランスを抜けると、明るい木目の居心地のよいカフェさながらのウェルカムスペースが広がり、創業者の言葉が壁一面を彩る。「ひとつの事業は永遠ではない」「今日の利益は明日の繁栄のために使う」「売らない勇気を持つ」「会社の成長は『お客さまにどれだけ喜んでいただけたか』に比例する」……。隣接コーナーには、開校記念として池森会長が揮毫(きごう)した「人間大好」の額やファンケルの社史が飾られている。
5つある研修室・接客実習室は花の名前がつけられ、「カスミソウ」(花言葉=清い心、親切)、「カトレア」(優雅な女性)、「ガザニア」(あなたを誇りに思う)、「アヤメ」(愛、あなたを大切にします)「アカシア」(友情)と、いかにもファンケルらしい。その一室で、スカーフを巻き、店舗に立つのと同じ身だしなみで、熱心にノートを取る5人ほどの可憐な女性たちの姿があった。「10月のリニューアルオープンに向けて特訓中の『ファンケル銀座スクエア』のスタッフです。すごい緊張感でしょう」と、松ケ谷学長は嬉しそうだ。この大学本校の開設によって、同社の研修施設は4拠点となり、グッと厚みが増した。
筆者の目に、壁に飾られた池森会長の言葉が飛び込んできた。「どんなに知識を身につけても、それに心がともなわなければ、その知識はないに等しい……お客さまに感謝する心、大切に思う心があって初めて、その知識がお客さまに伝わるということを忘れないでください」
その言葉はファンケル大学の神髄を、余すところなく語っている。