橋下、「堺」は作戦負け!大阪「府市統合」瓦解へ

現職市長の「堺を無くすな!」キャンペーンに、地元出身のサッカー界のドン、川淵三郎も登場。百人力か。

2013年10月号 POLITICS

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堺市長選は激戦の真っ只中だ。大阪市と堺市を解体再編し、大阪府と一体化して支配しようとする維新の野望「大阪都構想」に、現職市長が先頭に立って、真っ向から抵抗している。

橋下徹大阪市長(日本維新の会共同代表)率いる大阪維新の会は「大阪都構想の負け」「維新の負け」を、何としても阻止しようと総力戦で臨んでいるが、容易ならざる状況だ。

まだ維新が上り調子だった昨年8月、与野党が揃って、大阪都構想に道を開く「大都市地域特別区設置法」を成立させた。あれから1年。維新の勢いは萎み永田町の大阪都構想への関心は薄れたが、維新の苦戦ぶりに「改憲」の行方や「野党再編」の思惑も絡んで、堺市長選の注目度が俄然高まっている。

公明票も大半は「竹山支持」

9月29日の堺市長選は、「大阪都構想反対」を唱え再選出馬した竹山修身前市長(63)に新人の西林克敏元堺市議(43)が挑む構図だ。竹山には民主党が推薦、自民党は支持、加えて共産党が独自候補擁立を見送る側面支援で、反大阪都構想・反維新包囲網を形成する。公明党は自主投票だ。対する維新は民放アナに出馬を断られ、告示1カ月前になって堺市議団幹事長だった西林に決めたが、2月に出馬表明した竹山に比べ完全に出遅れている。ここまでの選挙戦は、先行した竹山の作戦勝ちだ。

大阪都構想は、もともと大阪府と大阪市を統合する「府市統合」の発想が出発点だ。両者の長年の対立は「府市合わせ(不幸せ)」と揶揄され、施設や事業を競う「二重行政」が問題視されてきた。維新はそれを「府市統合」で一元化し、大阪再生につなげると主張している。力点は府と大阪市の問題の解消にあって、堺市は無関係のはずだった。ところが、維新が「大阪都構想に堺市も組み込み、特別区に分割再編する」と言い出したため、堺市まで大阪都構想の当事者になってしまったのだ。

それを見て、堺市出身の竹山は「都構想反対」に舵を切り、「堺市が分割され消滅する」と市民感情への訴えを開始、着々と「反大阪都構想・反維新」の包囲網作りを進めた。

夏の初め、堺市内のあちこちに「堺を無くすな」と大書したポスターが出現した。地元の名門、府立三国丘高の先輩、川淵三郎日本サッカー協会キャプテンと竹山が握手する姿だ。堺市が生んだ№1有名人、川淵の知名度は抜群だ。ポスターは大いに威力を発揮し、今では「堺の消滅には反対」というシンプルな意見が幅広く浸透している。堺市は人口84万人、06年に政令指定都市に昇格したばかりだ。「大阪府からやっと委譲された権限と財源を、大阪都に召し上げられる」という警鐘も効果をあげている。だが何といっても「堺が消えるのは、なんぼなんでもあかん」という声が大きい。中世からの自治・自由の伝統にプライドを持つ堺市民の意地に火がついた。維新の候補の西林も堺生まれ、堺育ち。「堺を無くすな」への反論は歯切れが悪い。「堺市の廃止」を仕掛けた橋下さえ「堺市はなくしません。市役所をなくすだけです」としどろもどろの弁解に追われる有り様だ。公明党が自主投票に回ったのも、そんな空気が影響しているに違いない。先の参院選の比例票をベースに計算すると、自民、民主、共産が計約15万票、維新は約10万票と差が開いている。自主投票の公明の7万票の行方が気になるが、自民党の調査では大半は竹山支持に流れているようだ。

押し込まれている維新は、橋下が前面に出て堺市内を駆け巡る一方、国会議員全員に堺入りを要請、地方議員総動員のローラー作戦で巻き返しを図っている。公明党の支持母体・創価学会にも松井一郎幹事長(大阪府知事)が働き掛けたが、婦人部を中心に橋下への反発が強く、自主投票の壁を破れなかった。抵抗する小国「堺」を攻め落とせるかは結局、橋下人気が今も通用するかにかかっている。

まやかしの「統合効果」

実は、橋下のホンネは堺市長選どころではない。大阪都構想の本丸「府市統合」がピンチに陥っているからだ。

大阪都構想は、現在、大阪府と大阪市の間で「府市統合」の協議が進んでいる。維新自らが11年の知事・市長ダブル選挙の前に「15年4月までに大阪都移行」と大見得を切ったため、もう時間がない。堺市に構っている余裕はないのだ。

8月初め、漸く具体案が出た。大阪市24区を5または7の特別区に再編し、大阪市の「仕事、
人、カネ」を大阪都と特別区に振り分けるシミュレーション。橋下・松井主導の「制度設計」案だ。ところが、この案に自民党議員らから「まやかし」「粉飾」と厳しい声が飛んでいる。

松井が知事就任当時「(年額)4千億円」と豪語した統合効果は4分の1にも満たない976億円と大きくスケールダウン。おまけにその数字は、統合とは無関係でしかも難航している地下鉄民営化など市の行革の数字が大半だ。「数字は何とでもなる。見せ方だ。もっと乗せられないか」という橋下の事務方への指示が暴露されている。そこまでしても、この数字にしかならないとすれば「統合効果」そのものが疑われる。

プラスが足りなかったためか、コストも無理やりに抑えられている。特別区の庁舎を作らず民間ビルを借りたり、業務の増大に比して人件費を大幅に低く見積もったり……現実性に乏しい部分が次々に現れる。大阪市の負債約3兆円を大阪都が引き受けるのは仕方がないとしても、財政再建団体に転落する。どうにも解決の見通しが立たないテーマが満載だ。おまけに時間もない。特別区に中核市並みの強い権限を与える約束を果たすためには、国会で125もの法改正を通さなければならない。住民基本台帳を変更するシステム改修にも1~2年はかかる。15年4月移行の現実性は既に薄れている。だが、橋下はこの案をベースに府市の協議を乗り切り、来年秋の大阪市民による「住民投票」に持ち込む姿勢を変えていない。いったいどう始末をつけるつもりなのか。

仮に「堺」で逆転勝利を収めても、本丸の「府市統合」が頓挫すれば「大阪都構想」は終わりだ。地雷はいっぱい。秘策があるのか、投げ出すのか――。「堺」の先こそ本当の地獄かもしれない。(敬称略)

   

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