2013年9月号 連載 [ディープ・インサイド]
この夏、義援金を元に制作された、原発事故により避難した老人ホームの状況を描いた衝撃のルポ、『避難弱者』(相川祐里奈著、東洋経済新報社、8月30日発売)が話題を集めそうだ。
自力で避難できない高齢者たちを置いて逃げるわけにはいかない――。原発事故の急速な進展と情報・指示の錯綜と混乱。介護職員たちは死にものぐるいで安全な避難先を探すが、移動手段も受け入れ先も見つからない。本書は、過酷な状況の中で放射線の不安と闘いながら、高齢者に寄り添い続けた介護職員たちの奮闘と葛藤の記録である。
著者の相川は弱冠26歳のフリージャーナリスト。大学を卒業して読売新聞記者となり、3・11後に福島県で取材したことを機に、新聞記者を辞めて国会に設置された東京電力福島原子力発電所事故調査委員会に飛び込み、事務局調査員として一部調査を担当することとなった。
国会事故調は12年夏に国会に七つの提言を行い解散したが、相川は原発事故で避難した高齢者施設の状況を記録として残すことを思い立つ。福島県内の老人ホーム計20施設を訪ね、延べ47人から話を聞くことができた。施設長だけではなく、現場職員の生の声が感動を呼ぶ。
相川の取材活動を支えたのは、社会福祉法人福島県社会福祉協議会老人福祉施設協議会の協力とその義援金――。涙が溢れる一冊だ。