北海道の「本当の価値」掘り起こす新観光戦略

西川 健 氏
北海道運輸局局長

2013年6月号 LIFE [インタビュー]
インタビュアー/本誌 和田紀央

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西川 健

西川 健(にしかわ たけし)

北海道運輸局局長

1955年大阪府生まれ。79年東大法学部を卒業し、運輸省(現国交省)へ。米UCLA大学院留学。OECD(在パリ)派遣、国際観光振興会管理部長、大臣官房参事官(税制)、国土交通政策研究所長、大臣官房審議官(情報政策・危機管理)などを経て2011年10月より現職。

——運輸局といえば陸海運の許認可官庁。堅苦しいイメージがありますが、北海道運輸局のホームページは観光関連のバナーが満載ですね。

西川 2008年に国土交通省に観光庁が設置され、政府は「観光立国」を「新成長戦略」に掲げました。現在、道内の観光消費額は約1.3兆円。北海道の農業産出額(約1兆円)と水産業産出額(約2600億円)の合計より大きいのです。

観光需要は堅調に見えますが、年間の北海道の入れ込み客数は、道内観光客が約4500万人、国内道外客が約500万人、外国人が約70万人。つまり道外客は約1割にすぎないのです。他方、道内の179市町村のうち約8割が過疎地域に指定されており、道民の高齢化率(25%)も全国平均(23%)より高いのです。

人口減少と高齢化が進み、経済縮小が懸念される中、目指すべきは交流人口の拡大です。国内外の人々に北海道の魅力をアピールし、広く観光客を呼び込み、地域経済を潤し、活性化することが求められています。しかし、これまで売りにしていた雄大な風景、美味しい海産物、豊富な温泉に頼るだけでは、これまで以上に、道外からの観光客を増やすのには力不足です。

アジアで唯一の西欧田園型ライフ

——3月末に運輸局として初めて北海道観光推進戦略を発表しました。

西川 厳しい財政制約の下で、費用対効果の高い地域振興を推進するには、観光に関わる道内の主な機関・団体・民間事業者がベクトルを合わせ、可能な限り「総がかり」で諸課題に取り組むことが求められています。その羅針盤となる中長期的な観光戦略が不可欠だと思いました。

昨年末に「素案」を発表し、道や札幌市、道経連、道商工会議所連合会、道観光振興機構など24団体と意見交換し、「オール北海道」で観光振興に取り組む戦略としました。

——新たな観光戦略の目玉は?

西川 北海道は「アジアで唯一、西欧田園型の豊かなライフスタイルを享受できる地域」です。そのこと自体がブランド価値であり北海道の強みですから、このコンセプトを観光プロモーションの基本に据えることを提案しました。

——西欧田園地域との類似性は?

西川 北海道は、フランスやイタリアとほぼ同じ北緯41~45度にあり、春から夏にかけての長い日照を活かし、空間的・精神的に豊かな時間をすごせます。パリに暮らした体験からも、北海道と西欧の生活感覚はよく似ており、それは春から秋までの屋外活動の喜びの大きさに象徴されます。

「アウトドア」では、牧場や花卉(かき)園を眺めながらのドライブ、湖沼での遊覧船、キャンプ、ゴルフ、ラフティング、乗馬、マラソン、サイクリング、フィッシング、ハイキング、登山、パウダースノーを満喫できるスキー、幕別発祥で全国的になったパークゴルフ。「食」では高評価のスイーツ、希少で美味の道産生ラムを使ったジンギスカン、道産ワインやチーズ、欧州では高級なジビエ料理の素材であるエゾシカ肉など西欧風の素晴らしい食材が揃っています。さらには、「アイヌ文化」は、外国における先住民族との共生に通じるものがあります。

観光を通じた高付加価値経済

——北海道産のワインと食材のある豊かな生活を提唱していますね。

西川 道内に20あるワイナリーのものをほぼ全て飲んで、それぞれに個性のある輝ける未来を確信しました。北海道の気候や風土を活かしたよいワインができており、10年後がさらに楽しみです。約30年間で4千種類以上のワインを飲んできた私が言うのですから間違いありません(笑)。

ワイナリーツアーも、西欧田園型ライフスタイルの楽しみの一つです。ぐるなびさんの協力を得て、「鉄道、バス、タクシーで北海道産のワインと食事を楽しむ豊かな生活を!」と題する特設サイトを設け、道産食材・観光・公共交通利用の需要拡大を呼びかけています。

——観光を通じた北海道経済全体の高付加価値化を提唱していますね。

西川 道内には優れた観光資源があり、小説や映画のモチーフとなるテーマ性も豊富ですが、関係者の連携が築かれていないために活かし切っていないケースが多く残念です。

私は、北海道の観光資源の「本物の価値」を、道外からのお客様となる「よそ者」の目で再評価するべきだと主張しています。道民にとってはありふれたことでも、旅人の目には新鮮で魅力的に映ることがよくあります。

北海道のそこにしかないモノ・コトに徹底的にこだわり、磨き上げる姿勢が道外の人に感動を与え、「わざわざ北海道に来た甲斐があった」と喜ばれるのです。

——運輸局主催の「北海道観光掘り起こし・磨き上げコンテスト」の受賞者が話題を呼びました。

西川 「一生に何度も北海道を旅行しなければ」と思えるようなテーマとルートを探し出す道内初のイベントです。審査は道外のプロに依頼し、「北海道ガーデン街道」(北海道ガーデン街道協議会)と〈滞在メニュー「ちょっくら旅」〉(ふらの観光協会)が優秀賞に輝きました。

ところで、着任以来、運輸局の第一の使命である安全安心な輸送サービスの確立も含めて、運輸観光セクターのハブセンターとして、当局独自で30以上の斬新な施策に取り組んできました。これらは広範な関係者の連携により最小の費用で実施できているためメディアにもよく取り上げられています。是非とも当局のホームページをご覧ください。

   

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