2013年6月号 BUSINESS
政権交代後、最も存在感を増している経済人といえば、楽天の会長兼社長、三木谷浩史氏だろう。産業競争力会議の民間議員のほか、米倉経団連の方針に嫌気が差して飛び出した後に、自身で立ち上げたインターネット企業団体「新経済連盟」の代表理事として精力的に政治活動を行っている。4月16日には「新経済サミット」と銘打ったイベントを開催し、世界中からIT業界の要人を集めただけでなく、前夜祭には安倍晋三総理大臣も招聘。国内外問わず、自身の影響力を誇示した。
こうした三木谷氏の動きについて、市場は今のところ好意的に見ているようだ。5月8日には年初来高値となる1330円まで株価が上昇。その後も順調な推移を見せている。三木谷氏の存在感が増し、政治活動によって様々なインターネット関連規制が緩和されれば、楽天の業績に好影響という見方だ。
だが、楽天社内から見た姿はやや異なる。社員から聞こえてくるのは「社内の会議はリスケとキャンセルの嵐ですよ」といった不満の声ばかりなのだ。
「政治関連の会議がすべてにおいて優先され、それから社内のスケジュールが決まるため周りはみな待機状態。決裁権を持ったままの不在だから大事な議案が何も進まない」と中堅社員は漏らす。社内ではとりあえず産業競争力会議が終わる6月までは我慢と諦めているという。
もともと楽天は創業者でもある三木谷氏のワンマン経営。決裁権を持ったまま政治活動に腐心している状況が続けば、表面上は問題がなくても、水面下でウリとしているスピード経営に綻びが出てくるのは当然だろう。
グローバル企業を標榜し、英語化を強制的に進めた楽天だが、お膝元の国内市場で競合の米アマゾンに売上高で劣っていたことが明らかになっている。2月にアマゾンが米証券取引委員会に提出した同期の年次報告書によって、同社の2012年12月期の日本での売上高は前期比18.6%増の約7300億円と判明した。一方、楽天のインターネットサービス分野の12年12月期の売上高は2858億円だ。事業モデルに違いがあるものの、これまで楽天はアマゾンが数字を非開示なのをいいことに「国内最大のEコマース事業者」とうたってきたが、実態は売上高で2番手に甘んじていたことが浮き彫りになった。
楽天が5月9日に発表した1~3月期の連結決算こそ、金融事業の押し上げで最終利益40.1%増の142億円と増収増益だったものの、ここ数年積極的に進めてきた本業の世界展開は順調とは言いがたい。中国の検索エンジン大手、百度との提携解消に続き、インドネシアでも現地パートナーとのジョイントベンチャーが最近破局したと報じられた。欧州においても思うように事業拡大が進まず、本業に貢献できない足踏み状態が続いている。
そんな中、三木谷氏は3月19日に自ら著した英語新刊本『Marketplace 3.0』を出版。外国特派員協会で会見を開き、国内外のメディアに積極的にPRした。三木谷氏は、同著で「企業文化を書き換えるためのルール」として、「仕組み化」「顧客満足度の最大化」「スピードを保つこと」などを掲げているが、自らの不在が、社内のスピードを大幅に滞らせている状況に気付いているのだろうか。