参院選の焦点は「安定」  「96条」は争点にならない

高木陽介 氏
公明党選挙対策委員長

2013年6月号 POLITICS [インタビュー]
インタビュアー 本誌 宮嶋巌

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高木陽介

高木陽介(たかぎ ようすけ)

公明党選挙対策委員長

1959年東京都生まれ。創価大学法学部卒業。毎日新聞記者を経て、93年衆院選に33歳の若さで初当選(現在当選6回)。2006年より党選挙対策委員長。党幹事長代理、党広報室長、党東京都本部代表を兼ねる。テレビ討論などでお馴染みの論客である。

写真/平尾秀明

——安倍首相と初当選が同期ですね。

高木 安倍さんと同じ50代の同期が集まって飲んだり、意見を言い合ったり、結構仲良しなんです。

——それにしても大化けですね。

高木 本来安倍さんは筋を通すタイプですが柔軟なところがあり、そこが魅力なんですよ。第1次安倍内閣の時は気負いがあり、先を焦ってしまった。再登板の今は懐が深くなった。何より「3本の矢」がツボにはまり、景気回復が実感できるようになりました。民主党時代の混乱と停滞を脱し、TPP参加を決断し、日米同盟の再強化にも動き出した。「決められる自公政権」への期待が、75%を超える内閣支持率に表れています。

——新政権における公明党の実績は?

高木 「3本の矢」を現実に即した姿にしたことです。まず昨年11月の衆院解散直後、山口(那津男)代表が大型補正予算を提唱。新政権の下で13兆円を超える補正予算を組み、「切れ目のない15カ月予算」を実現した。次に13年度予算編成では、我が党が主張してきた「防災・減災ニューディール」が大きく前進しました。古くなった国管理の社会インフラの維持補修に予算を振り向けるだけでなく、その総点検を通じて事業の優先順位を明確にしました。さらに、自治体管理のインフラの老朽化対策として、新たに地方向けの「防災・安全交付金」を創設し、総額1.6兆円を投じました。

政治に安定もたらす「現場感覚」

——これまでの安倍内閣の得点は?

高木 100点満点を差し上げたいが、あえて90点。マイナスは懸案の中国問題です。政府・与党が関係改善の地ならしに、総力を挙げて取り組まないと。

——参院選のスローガンに、公明党は「安定は、希望です。」を掲げました。

高木 いま日本に必要なことは、政治を安定させること。それこそが経済や外交、そして、何よりも人々の生活を強くします。この夏の参院選でネジレを解消すれば、スピード感を持って多くの課題を解決できるようになります。

——自民党は衆院だけでなく参院でも単独過半数を確保する勢いです。

高木 仮にそうなっても、自公連立の枠組みは微動だにしないでしょう。自民党はマクロで物事を捉え、国の舵を取る術に優れていますが、ややもすると上から目線となり、生活者や地域の声を忘れてしまう。一方、国と地方に約3千人の議員ネットワークを持つ公明党は、生活者の意見を吸い上げ、暮らしの現場の諸課題に対応する術に長けています。つまり、公明党が、自民党が苦手とする持ち味を発揮することで、連立政権は確固たるものになっているのです。

——東京都議選(6月23日投票、総定数127)まで1カ月に迫りました。

高木 7月の参院選の結果に直結するため、各党とも「準国政選挙」と位置付ける総力戦です。公明党は93年以来5回連続全員当選ですが、今回は厳しい。日本維新の会とみんなの党が定数1~3の選挙区で選挙協力を進め、両党で50人を超える候補者を立てる見込みだからです。苦戦が予想される目黒区や世田谷区など5選挙区を超重点区に定め、現有23人の全員当選を目指していますが、我が党は、昨年の衆院選の比例東京都ブロックで、自民(163万票)、維新(130万票)、民主(101万票)、みんな(76万票)に次ぐ第5党(66万票)にとどまり、このまま埋没しかねない。

一方、参院選は選挙区4人(東京、埼玉、神奈川、大阪)と、これまでに比例7人の11人を擁立します。第3極とぶつかる定数3の埼玉と定数4の神奈川は、ともに30代の新人候補。知名度がなく非常に厳しい戦いです。何としても現有10議席以上の当選を果たしたい。

公明党は「護憲」ではなく「改憲」

——安倍首相は憲法96条を見直して、改憲の発議要件を、衆参両院それぞれの総議員の3分の2から過半数に緩和すべきと主張しています。

高木 公明党は04年の党憲法調査会において、現憲法を大切にしながら新しい価値を加えていく「加憲」を打ち出しています。もともと環境権やプライバシー権の創設を唱える改憲であり、我々は護憲ではない。自衛隊の存在についても、9条2項に加憲すべきとの論議があり、私も同意見です。とはいえ、憲法が国家権力から国民の権利を守るという立憲主義に基づくため、一般の法律より改正要件が厳しくなっているのは当然であり、96条の先行改正には慎重にならざるを得ない。手続きだけではなく改憲の中身を議論しなければ、何のための憲法改正か、国民にわからないでしょう。

——改憲を党是とする自民党は、「憲法改正草案」の内容を公約に盛り込み、政権に復帰しました。「96条改正」で連立与党に亀裂が入りませんか。

高木 我が党としても議論を深め、自らの憲法観と何を加憲すべきかを明確にすべきです。手続き要件の緩和についても、一律に過半数というのは軟らかすぎるが、中身によってはもう少し緩和してもよいかもしれない。安倍首相と山口代表が互いの草案を持ち寄り、胸襟を開いて話し合うべきです。今の安倍さんは自信に溢れ、懐の深さを感じます。

そもそも自公連立の合意(使命)は、国難に立ち向かい日本を再建することです。まずは景気を上向かせ、来年4月の8%、再来年10月の10%の消費増税を成し遂げなければ、我が国の財政は滅びます。それまでは切れ目なく景気対策を打ちながら、被災地復興、社会保障改革、TPP、原子力エネルギー改革などを推進しなければなりません。安倍総理には5年は続く安定政権を築いてもらい、山積する課題をやり抜いてもらわなければ困るのです。

我々は「憲法」が、参院選の大きな争点になるとは考えていません。政党の離合集散、生滅が激しい中で、地域に根を張った公明党の存在自体が、政治に安定をもたらす。きめ細かな生活者目線を持つ我が党の持ち味が生きる政治状況です。

   

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