「ファンケルらしさ」を取り戻すスピード経営

宮島 和美 氏
ファンケル社長

2013年5月号 LIFE [インタビュー]
インタビュアー 本誌・宮嶋巌

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宮島 和美

宮島 和美(みやじま かずよし)

ファンケル社長

1950年神奈川県生まれ。成城大卒。ダイエーの常務執行役員を経て、2001年に義兄の池森賢二氏が創業したファンケルに転じ、07年社長、08年より会長。日本通信販売協会会長などを歴任。4月1日に池森氏が会長に復帰したのを機に、自らも社長に返り咲く。

写真/平尾秀明

——4月1日に、5年ぶりに(会長から)社長に復帰されました。

宮島 昨年末、創業オーナーの池森(賢二名誉会長=当時)から「ファンケルらしさの再徹底を図るため、オレは会長に復帰するので社長をやってくれ」と言われ、思わず「ボクですか」と聞き返してしまいました(笑)。

「池森オーナー」復帰の舞台裏

——昨春、化粧品事業のリブランディングを実行した成松(義文)社長は相談役に退くことになりました。

宮島 新商品は、お客さまから高い評価を得ましたが、結果として業績にストレートに反映されず、12年4月~12月期の売上高は前年同期比8.5%減。健康食品が伸び悩み、2年連続の業績下方修正となりました。創業から33年が経ち、組織のタガが緩んでいないか。成松さんが創業者の一線復帰を促す形で身を退くことになりました。

——「ファンケルらしさ」とは?

宮島 化粧品で肌が荒れていくことが70年代に大きな社会問題になり、安心・安全な「無添加化粧品」を誕生させたのが、ファンケル創業の原点です。以来、池森は「不安」「不満」「不便」などの世の中の「不」のつく事柄をなくすため、サプリメント、青汁、発芽米などの事業を拡大してきました。

その池森が唱えるファンケルらしさとは、第一に「お客さま視点の徹底」であり、次に「チャレンジ精神」、「社会への貢献」となります。スタイリッシュなデザイン重視のリブランディングは、ファンケルを使ってくださるお客さま視点に合ったものなのか、池森は疑問を感じていたようです。

——池森会長との役割分担は?

宮島 池森は13歳年上の義兄であり、CEOとして大方針を示してもらい、それをしっかり受け止めて実行するのが私の役割です。営業部門のテコ入れには、元副社長の田多井(毅)さんに、現場復帰してもらうことになりました。75歳の池森は元気いっぱい。「10倍のスピード経営で3年でファンケルらしさを取り戻す」と申しています。

——創業者の号令のもと、3月1日にカンパニー制に組織改編しました。

宮島 組織が肥大化し、責任の所在が曖昧になっていました。6本部・7事業部制を廃止して、「美しくなれるモノ・サービス」を提供する「ビューティカンパニー」と、「健康になれるモノ・サービス」を提供する「ヘルスカンパニー」に再編し、全事業のグローバル化を推進するため「海外事業カンパニー」を設置しました。

さらに、これまで各部門が担っていた教育機能を集約し、「ファンケル大学」を新設。「ファンケルらしさ」を体現するための理念教育を含む教育全般の責任を持ち、次世代の経営層を育てる機能を強化しました。この組織改編と合わせて10人の新たな執行役員を抜擢。生え抜き(大学新卒採用)から初めて3人の役員を選び、最年少は41歳。10人のうち4人は女性です。

——3月12日には持株会社への移行を発表。とにかく矢継ぎ早ですね。

宮島 会社をプロフィットセンターごとに分け、ホールディングスはサポートに徹する持株会社体制は、巨大企業のスピード経営に最適と考えていましたが、1千億円規模の当社でも事業の専門性・自律性を高め、事業ごとの責任を明確にするには持株会社が向くと考えるようになりました。

プロジェクトチームを立ち上げ、ビューティカンパニーとヘルスカンパニーは事業会社として分社化し、175の直営店舗を化粧品とサプリメントで分けることも視野に入れています。

今後、急成長が期待されるグローバル展開について、持株会社がグループ全体最適の視点で方針を示し、迅速な意思決定ができる体制を早く整えたいと思います。

「伸びんとすれば、まず屈せ」と申しますが、今期は池森が目指すスピード経営の足場を固める時です。6月の株主総会でご説明したうえで、来年4月には純粋持株会社に移行し、大きくジャンプしたいと考えています。

平均9.6%のベースアップ

——3月8日には、店舗で働く契約社員約1100人の賃金を平均9.6%引き上げると発表しました。

宮島 ベースアップは最大で月2万円。平均すると1万7322円の引き上げとなります。これに業績連動の一時金が年2回あり、人件費は年間2億円ほど増えます。

——平均9.6%とは大幅ですね。

宮島 「なぜ、月2万円なのか」といえば、それは創業者の一声です(笑)。デフレ脱却へ向け、経済界に給料の引き上げを求める安倍総理が会見で、わざわざ当社の賃上げを取り上げてくださいました。首相官邸のホームページには「お客さま視点の徹底を推し進めるために、お客さまと直に接する店舗スタッフが、誇りを持って働ける環境を整えることが必要と考え、ベースアップを決断」と、当社の考え方が紹介されています。

実は、化粧品の店舗販売ではスタッフの不足から十分なお客さま対応が行えず、接客スキルの向上が課題になっていました。池森に言わせれば、「なぜ、もっと早く手を打たなかったのか」となります。創業者の復帰でスピード感が増したのは確かです。

——安倍総理も宮島社長も前回は1年と短命政権でした。心構えは?

宮島 6人の総理が1年ごとに交代しましたが、2度目の安倍さんは長く続きそうです。今年の流行語大賞は「出戻り」という人もいます(笑)。安倍さんは肩の力が抜け、実に手慣れた感じです。私はダイエーの創業者、故・中内?さんの秘書室長を20年も務めたので、新聞の「首相の1日」を見るたびに、殺人的なスケジュールが心配になる。せめて休日は半分にして差し上げたらと思います。池森も私も再登板です。「出戻りパワー」で次世代に誇れるバトンを引き継ぎたいと話しています。

   

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