「右旋回」の維新に食い込む「幸福の科学」。公明党大阪市議団も「アンチ橋下」にポジション変え。
2013年5月号 POLITICS
「強制避難を解除せよ」と仰天の主張を繰り広げた西田譲の選挙ポスター
参院選まで3カ月。日本維新の会の橋下徹共同代表(大阪市長)が大きく右旋回しだした。大阪から「行政改革」と「地方分権」を訴え、既成政党の政治を変える期待を一身に集めてきた橋下だが、ウルトラ保守勢力が集まる旧太陽の党と合流して方向を見失ったのか。「脱原発」をかかげ関西電力を猛烈に追及していたことなど遠い昔の夢のようだ。
合流後初の党大会が開かれた3月30日の前後、メディアはいっせいに旧維新系と旧太陽系の東西対立を書きたてた。橋下と国会議員団の相互不信、そもそもの政策の違い。バラバラの集団をまとめ、自身の求心力を高める手を打つ必要に迫られていたのは確かだ。その答えが党大会で見えた。
ひとつは旧太陽の党寄りに政策を右旋回することだ。綱領に「日本を孤立と軽蔑の対象に貶(おとし)め、絶対平和という非現実的な共同幻想を押し付けた元凶である占領憲法」と石原慎太郎共同代表好みの大仰な文言を書き込み、「保守」も明記した。
さらに驚いたのは、橋下が記者会見で「自民・維新・みんな(の改憲勢力)で3分の2を確保すればいい」と言い切ったことだ。その戦略で行くのなら、「改憲3党に3分の2を与えるか」が参院選の争点化しかねない。橋下は最近盛んに「安倍首相がやっていることは僕らが言っていたこと」と強調している。旧太陽の党寄りに軸足を移した勢いで、「改憲勢力の結集」の名のもとに真っ向から「安倍支持」で参院選を戦おうというのか。
だが、橋下は同じ党大会で「自民・公明の過半数阻止を絶対にやらなければいけない」とも訴えている。「自民・公明」とは戦い、「自民・維新・みんな」では共闘するという一見矛盾した戦略は「自民・みんなは友党だが、公明は敵」とも受け取れる。大阪で協力関係にあった公明と維新の間に何が起きたのか。
11年11月のダブル選挙に勝って橋下が新市長として大阪市議会(定数86)に乗り込んだ時、与党の大阪維新の会は33議席しかなく過半数に及ばなかった。そこへ助け船を出したのが第二会派の公明党(19議席)だ。当時、公明は前々回の衆院選で惨敗、選挙区の全議席を失っていた。奪還にかける公明に維新が選挙協力することが大阪市議会での協力の条件だった。バーター取引はめでたく成立。公明は橋下市政を支える一方、昨年の衆院選では首尾よく9選挙区で全勝、雪辱を果たした。
だが皮肉なことに議席を回復したとたん、公明には維新に協力する理由がなくなってしまった。おまけに維新は自らハードルを上げた。参院選・大阪選挙区(定数4)に候補者擁立を表明したのだ。現職が引退し新人候補が1議席死守をめざす公明にとっては迷惑なことだ。協力を続ける意欲が萎えただろう。
とはいえ公明の協力なしでは橋下市政は暗礁に乗り上げ大阪都構想も瓦解しかねない。そこで、6月に予定される東京都議選(定数127)での両党の協力の可能性が探られたという。維新は都議選でも攻勢に出て現有3議席から一気に過半数を狙い64人以上を擁立しようとしている。一方、公明党・創価学会にとって都議選は特別な重みがある。都議選の候補者調整と大阪市議会での協力がバーターできないか。ところが、維新の候補者調整の主導権を握ったのは旧太陽系。「都議会での勢力拡大が最優先」と大阪のローカル事情などには見向きもしない。「みんなの党との調整は進んでいるが、公明とはもうガチンコでいくようですね」と大阪の維新関係者はため息をもらす。
さらに、維新と公明は国政でもさや当てを演じている。石原が改憲に消極的な公明に触れて「自民党と公明党の連帯っていうのはどうなるんですかねえ」と露骨にあてこするなど、憲法改正を梃子に連立の座を入れ替わろうと言わんばかりの動きを公明は苦々しく見ている。
そこへ、思わぬところで公明が顔色を変えるできごとが起きた。3月13日の衆院予算委で維新の西田譲議員が「福島第一原発事故では微量のセシウムが飛散しただけだ。低線量のセシウムは人体に無害だ。医学や科学に反する強制避難を直ちに全面解除するべきだ」と仰天の主張を繰り広げたのだ。西田の論法は幸福の科学の機関誌「ザ・リバティ」や幸福実現党の矢内筆勝党首が主張する内容そのまま。「維新には幸福の科学が食い込んでいるのか」という衝撃が広がった。
先の衆院選で幸福の科学の信者や幸福実現党の候補者が維新の公認を受けて議席を得たのではないかとの噂が絶えない。西田は小林興起前衆院議員の元秘書で、自民党の千葉県議だった人物だが、図らずも噂を裏付けた格好だ。維新の関係者が声をひそめて打ち明ける。
「他にもいるし、まだ増えそうです。維新は参院選では3千万円もの選挙費用の自己負担を求めているので候補者が集まらない。幸福実現党が松井一郎幹事長らのところへ持参金付きで話を持ち込んでいるらしいですよ。松井さんだけでなくて東軍(旧太陽系)も受けているようですがね……」
創価学会と幸福の科学は犬猿の仲。「維新が信用ならないのは、橋下の手法もあるが議員の質が余りにもひどいからだ。西田の質疑はその典型だ」と学会の幹部は嫌悪感を隠さない。
参院選でせめぎあい、中央での不信も高まる中、このところ公明党大阪市議団の態度が目立って変わってきた。市立幼稚園の民営化、市営地下鉄・バスの民営化、水道事業の統合、と橋下市長肝いりの政策がどれも公明が反対に回って動かない。公明党市議は「我々は市民の利益に本当になるのかを考え、是々非々で対応する」と涼しい顔だが、橋下は少数与党の悲哀を味わわされている。
「改憲」を前面に押し立て威勢はいいが、旧太陽の党との妥協と安倍自民党への接近で「維新らしさ」も「野党色」も見えなくなり、維新の存在感は薄れる一方だ。公明党との関係がこのままこじれれば、大阪市政もお先真っ暗。橋下の行く手は全く見通しが立たなくなってきた。(敬称略)