「御用学者」の異常な審査 危険な「六ヶ所」活断層

渡辺 満久 氏
東洋大学教授

2012年10月号 LIFE [インタビュー]
インタビュアー 本誌 上野真理子

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渡辺 満久

渡辺 満久(わたなべ みつひさ)

東洋大学教授

1956年新潟県生まれ。理学博士。東京大学大学院理学系研究科修了、専門は地形学(変動地形学)。2001年より現職。著書に『新編日本の活断層』(共著)他。敦賀原発はじめ各地の原発周辺の活断層を早くから指摘してきた。

写真/門間新弥

――地震の原因となる活断層。そもそもどのように見つけるのですか。

渡辺 断層の中で、数十万年前以降の比較的最近に動いたものは近い将来にも動く可能性があり、活断層といっています。古い断層と違い、地表に起伏として動いた痕跡が残っているので、地形から活断層と判断します。起伏は川の浸食作用や火山活動などからも作られますから、空中写真や地形図を詳細に検討し、地形の形成過程を評価するのです。その評価、認定をする専門家は私たち変動地形学者です。

――活断層の専門家は、地震学者だと思っていました。

渡辺 完全な間違いです。地震学者は地球内部の活動に注目します。地表にある活断層の有無や、どういう動きをしているかは専門外なのです。地震学者にとって活断層は地中深くの活動の状況証拠の一つに過ぎませんが、変動地形学者は唯一の物的証拠と考えており、見方も大きく違います。地形学は新しい時代の地質を研究する分野とも言えますが、地質学ではなく地理学に属します。地理学は、ごく少数の国公立大学を除けば、文系学部にあることが普通です。一般に知られていないのはそのせいかもしれません。

原発事故後の審査にも懸念

――昨年以降、原子力安全・保安院でも見直しが始まりましたが、先生が原発周辺の調査をされたきっかけは。

渡辺 06年に広島大の中田高先生に呼ばれて島根原発近くの活断層調査に行きました。それまで国が審査したから大丈夫と思っていたのですが、愕然とした。国の報告書はとんでもない代物で、長い活断層を分断し過小評価していたのです。審査には変動地形学者は入っておらず、議事録では先輩方の数十年間の研究を冒瀆していると感じた。二重の意味で許しておけないと思いました。

――どうして国の審査がそんないい加減なものになっていたのでしょうか。

渡辺 一つには、国民にも政府にも変動地形学者が活断層の専門家だという認識がなく、審査から外されていた。もう一つは、審査を牛耳り、活断層を短く値切ったり、古くて動かないと無視したり、異常な評価を繰り返してきた学者がいたのです。長年にわたり保安院で審査に携わってきた「専門家」と原子力安全委員会で主査を務めた「専門家」(=衣笠善博・東京工業大学名誉教授、山崎晴雄・首都大学東京教授:編集部調べ)で、ともに旧通産省工業技術院地質調査所(現産業技術総合研究所=産総研)OBです。

――事故後の審査は変わりましたか。

渡辺 変わっていないと思います。保安院の「地震・津波に関する意見聴取会」メンバーは今も工学系の研究者や産総研、電力中央研究所出身の地震学者、地質学者がほとんどで、変動地形学者はたった一人。委員構成に偏りがあります。また現在の見直しの理由を「動かないとされていた断層が3・11後に動いたから」としていますが、動かないと考えたのは原子力関係者だけ。私たちは以前から活断層だと指摘しており、それを無視してきた反省もありません。

懸念しているのは、保安院が活断層を①地震を起こす大きな活断層、②①と構造的に関係する副断層、③揺れたときだけ動く弱面の断層、の三つに分類したこと。①と②はよいですが、②と③を分ける理屈がわかりません。①が近くにないとして断層を③の評価にし、「考慮しなくてよい」とする意図があるのではないか。

――原子力規制庁がスタートしますが、今後の審査に何が必要でしょう。

渡辺 委員は電力や経済の心配をせず、純粋に活断層の評価をすることが重要。それには人選の偏りをなくすことが大事です。また現地調査は事業者自身が行っていますが、調査結果に疑問を持った委員が自主的に調査できるよう、予算や権限を与えるべき。調査方法も、棒状の穴を穿って地質を調べるボーリング調査だけでは恣意的な評価につながりかねない。断層の断面が目視でき、コストも安いトレンチ(試掘溝)調査を必ずすべきです。

――心配する原発はどこですか。

渡辺 すべての原発が危ないと言うつもりはありません。活断層から距離がある原発は、想定できる揺れを考慮して造ってあるならよいのです。

六ヶ所で地震規模100倍値切り

問題は、非常に近いところに活断層があって地盤をずらす可能性が高いケース。断層が動くと、地表に亀裂が走り段差ができる。揺れには耐えても、断層が数十センチ動くだけで真上の鉄筋コンクリートの構造物が破壊された例はたくさんあります。それにあまり知られていませんが、日本に多い逆断層型の活断層では、動くと周囲のやわらかい地表が上下にたわみます(撓曲(とうきよく))。すると構造物は傾き、しかも傾きながら地震で揺れる。これは耐震性の計算に入っていません。

東通、浜岡、志賀、美浜、大飯、もんじゅ、敦賀の各施設と六ヶ所の核燃料サイクル基地はいずれも直近に活断層がある。だから再調査すべきと言ってきたのです。特に、浜岡と六ヶ所の近くにあるのは先の分類①の大きな活断層だから、動けば規模が違う。一番心配なのは六ヶ所です。国の審査では、下北半島を形作った東側の大陸棚外縁断層が活断層であることを否定し、そこから枝分かれした六ヶ所断層も否定、M6.8の直下地震、450ガルの基準地震動しか想定していません。しかし、これを活断層と認めていないのは原子力関係者だけであり、想定される地震規模(M8)を100倍も値切っているのです。その上、再処理工場の放射能の量は原発の比ではありません。

――国内に原発の適地は。

渡辺 北九州や太平洋沿岸には活断層が少ないところもある。大きな揺れや津波の心配はありますが、断層のずれと違って工学的に対処方法はあるでしょう。どうしても必要なら、立地をきちんと考えて作ればいい。

――東京都心の直下に活断層があるのではという研究者もいます。

渡辺 個人的には都心の地形にはほとんど異常がないと思う。ただ立川断層や大阪の上町断層など、都市部でも心配なところは多いですね。

   

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