「豆腐一丁300円」も戯言ではない大豆危機

2012年9月号 BUSINESS

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百年に一度の異常気象か――。

6月以降、世界の穀倉地帯・米国中西部を歴史的な干ばつと熱波が襲い、生育途上の大豆やトウモロコシが甚大な被害を受けた。国内で消費される穀物の大半を米国からの輸入に頼る日本にとって事は深刻だ。特に産地が北南米に集中する大豆は要注意。米国の禁輸措置に端を発した1973年の「大豆ショック」が再来し、豆腐の値段が2~3倍に跳ね上がるかも知れない。

米中西部の主要都市の6月の月間雨量をみると、例えばインディアナ州インディアナポリスは3ミリ(平年は約120ミリ)。イリノイ州の州都スプリングフィールドはわずか0.3ミリ(平年は約100ミリ)と降雨ゼロに等しい。

7月も状況は変わらず、穀物価格の国際指標であるシカゴの大豆・トウモロコシ相場は本稿執筆時(8月8日)でも過去最高値圏に張り付いている。

作柄を左右する受粉期に干ばつが直撃したトウモロコシは単収の低下だけでなく、実の品質が極端に悪化した。8月中旬から受粉期を迎える大豆もこのままではトウモロコシの二の舞いだ。食用油や豆腐、納豆の原料確保に黄信号が灯る。

米国が深刻な干ばつに天を仰いでも、日本の農水省は「米国とは季節が逆になる世界2位の産地、ブラジルの農家がシカゴ高騰に刺激されて大豆の作付けを増やし、最終的に日本の必要量は確保できるはず」(農水省幹部)と平静を装う。だが、彼らの見立ては、南米不作のリスクは織り込んでいない。それもそのはず。日本には家畜の飼料となるトウモロコシは35万トン近い国家備蓄がある。ところが、大豆は日本人の食卓に欠かせない重要農産物にもかかわらず備蓄の仕組みがない。有事のセーフティーネットが欠落しているのだ。仮に南米も天候不順に見舞われ、本格的な大豆の供給不安が台頭すると「今の日本にはこれといった対応策はない」(前出の幹部)。つまり、農水省にとって北南米の同時不作は自らの無為無策が白日の下に晒されてしまう「口にするのも憚られるシナリオ」なのだ。

実はこれまで日本にも大豆備蓄制度があり、一時は食用大豆の消費量(年間100万トン)の約1カ月分に相当する約8万トンを国の予算で確保していた。ところが、30年以上にわたり一度も放出実績がないとの理由から2011年3月末で備蓄は打ち切られた。

ここ数年は中国を筆頭に新興国の経済発展で食糧やエネルギーの消費が急増し、一次産品の国際的な需給構造が劇的に変化しているのは誰の目にも明らかなはず。にもかかわらず「過去に備蓄の放出実績がない」だけで食料安全保障網の重要な命綱の1本を断ち切った農水省の国際感覚、リスク管理の乏しさには呆れるほかない。これでは、「食料安保」を旗印に、農水省が農産物の貿易自由化に反対しても説得力はない。

百歩譲って、南米が豊作ならば問題はないのか。搾油用はともかく、「品質管理が雑で、中国にすら輸入を拒否された」(商社関係者)ことがあるブラジル大豆を、日本の豆腐・納豆用に右から左へ振り向けるわけにもゆくまい。今年は国内でも豆腐の原料に使われる東海地方の大豆が不作で、需給が逼迫気味だ。「スーパーの豆腐一丁300円」は決して戯言ではない。

   

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