堀ドリームインキュベータの「暗部」

新興不動産「セイクレスト」の架空増資疑惑の背後で暗躍。大阪府警と証券監視委が捜査中。

2012年8月号 BUSINESS

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大阪府警と証券取引等監視委員会による詰めの捜査が続く新興不動産会社セイクレスト(昨年5月破産)の架空増資疑惑。本誌6月号ではスキームづくりを主導したとみられる古参アレンジャー松尾隆氏の暗躍ぶりを取り上げたが、疑惑を巡っては陰の主役ともいえる上場企業が存在した。著名コンサルタントの堀紘一氏が率いるドリームインキュベータがそれである。

まずは疑惑の構図を見ておこう。2010年3月25日、経営不振に喘ぐセイクレストは21億2千万円の増資を実施した。割当先は福島県内で2カ月前に設立されたばかりの「カナヤマ」なる合同会社。しかも払い込みの大半、20億円分は不動産の現物出資によるものだった。

拠出されたのは和歌山県白浜町の広大な山林。その土地は増資直前、所有者が目まぐるしく変転していた。もとの所有者は「全管連」なる大阪市内の会社。そこから2月9日に「近畿クリエイト」なる別の大阪市内の会社に渡り、さらに同日付でカナヤマへと転売された。

問題は転売時の価格だ。当初はせいぜい3億円程度だったとされるが、それがわずか1カ月後には20億円という高値に化けた。新株を大量に発行して売り抜けるため、水増し増資が行われた疑いは濃厚だ。

コンプライアンス上の問題

さて、乱発された新株はどこに流れたのか。じつはここでドリームインキュベータが登場する。増資から4日後、カナヤマは受け取った530万株のうち2割超にあたる約125万株をドリームインキュベータに譲渡しているのだ。それらは2カ月後、市場で売却された。

そこに至る経緯は不可解極まりない。増資の2週間前、カナヤマは「エネアス・インベストメント」なる都内の会社と担保差し入れの合意を交わしていた。エネアス社が4年前に発行した私募債の償還ができなくなった場合、相当額をカナヤマが保有株で肩代わりするとの内容だ。この時、問題の私募債を抱え込んでいたのがドリームインキュベータ。合意に基づきエネアス社は早々とデフォルトを宣言、奇特なことにカナヤマはセイクレスト株でそれを代位弁済した。ドリームインキュベータは紙くず同然だった私募債の一部回収にまんまと成功したわけだが、最初からシナリオが描かれていたとしか思えない。

これらの背後で暗躍していたのが冒頭の松尾氏。08年秋にセイクレストへの関与を始めていた松尾氏は次にやはり新興不動産会社のゼクスに狙いを定めた。09年3月には両社を資本提携させ、不透明な株式移動が加速する。問題のエネアス社は特別目的会社としてもとはゼクスの別働隊を担っていたようだが、途中から延命のための資金操作の駒に使われていた。

こうして順を追うと、架空増資の引き金はエネアス社の私募債償還問題だったようにも見えてくる。ドリームインキュベータはおそらく善意の第三者を主張するのだろうが、怪しげな増資株を見ず知らずの会社から受け取る経営姿勢はコンプライアンス上、大いに問題があると言わざるを得ない。すでに当時、セイクレストやゼクスを巡る不透明な株式操作は一部で報じられていたからなおさらだ。

ドリームインキュベータほど、きら星のような人脈で飾り立てた会社も珍しい。創業者の堀氏はいわずと知れた著名人。東京大学卒業後、読売新聞と三菱商事で武者修行を積み、渡米してMBAを取得、米系のボストン コンサルティング グループの日本代表となり、マスコミへの露出を重ねた。ITベンチャーブームに沸く00年、堀氏は満を持して投資会社のドリームインキュベータを設立する。大株主にはオリックスの宮内義彦会長やソニーの出井伸之会長(当時)ら錚々たる顔ぶれが並び、社外取締役にはテレビでの共演も多いジャーナリストの田原総一朗氏を迎え入れた。

もっとも、ピカピカの外見を誇る同社だが、経営の暗部が浮かび上がるのは初めてではない。ライブドア事件で揺れる06年、ドリームインキュベータもまた揺れた。粉飾への関与が疑われた港陽監査法人が同じく会計監査人だったのだ。しかも投資事業組合を組成してベンチャー投資を盛んに行う手法も似通っていた。火の粉が降りかかるのを恐れたドリームインキュベータは港陽監査法人との契約解除の方針を公表。ところが、後任が決まらず、2カ月近くも漂流状態に陥る有り様だった。

実際、ライブドア事件の公判ではドリームインキュベータの名前が飛び出す場面もあった。港陽監査法人の内部で一部の所属会計士が監査先の取引内容や経理処理を問題視するメールをやりとりする中、ライブドアとともにドリームインキュベータもやり玉に挙がっていたのである。そこでは、出資先ベンチャーによる株取引とドリームインキュベータによる出資買い戻しが指摘されていたようだ。

「有報」に解せない売掛金

今年3月、ドリームインキュベータはあるファンドにまとまった出資を実行している。投資対象はファッションイベント「東京ガールズコレクション(TGC)」の商標権だ。イベント会社「F1メディア」がもともと保有していた商標権をファンドに切り出すスキームのようだが、その際の評価額は約5億円。うちドリームインキュベータは3億円の持ち分を取得した。

TGCを当初立ち上げた「ブランディング」グループは不透明な貸借関係の末、日本振興銀行破綻の余波で昨年初めに瓦解、麻布界隈の大家で知られる「バルビゾン」などにより関連利権は山分けされた。F1メディアを取ったのは飲食・不動産業を手がける若手経営者のグループ。件のファンドには芸能イベント会社やガールズプロモーションを謳う会社も相乗りしている。そうした世界への接近が経営に今後いかなる影響を及ぼすのか気がかりではある。

ドリームインキュベータは何かと秘密主義だ。有価証券報告書を見ると、解せない記載が目にとまる。「A社 8190万円」「B社 4200万円」――。売掛金の相手先だが、業務遂行上の制約から実名を公表できないらしい。セイクレストを巡る疑惑との関わりについて取材を申し込んだが、もちろん断られた。「(取材の諾否について)トップに確認した」とする原田哲郎執行役員によれば、「個別取引については回答しないポリシー」なのだそうだ。

   

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