「消費増税」の悪夢再び 住宅需要20万戸が消滅!

樋口 武男 氏
大和ハウス工業会長兼CEO

2012年8月号 BUSINESS [インタビュー]
インタビュアー 本誌 宮嶋巌

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樋口 武男

樋口 武男(ひぐち たけお)

大和ハウス工業会長兼CEO

1938年兵庫県尼崎市出身。関西学院大学法学部卒業。63年大和ハウス工業入社。赤字のグループ会社、大和団地の再建に成功し、2001年社長就任。04年から現職。プレハブ建築協会など10団体でつくる住宅生産団体連合会の会長を務める。『熱湯経営「大組織病」に勝つ』などの著者でも有名。

写真/平尾秀明

――消費増税法案が衆議院を通過し、参議院での審議が始まりました。

樋口 我が国の財政状況を考えると消費税は10%でも不十分。野田首相の方向性は理解できるが、その進め方には問題がある。円高・デフレ不況の中で増税すれば、消費が冷え込み景気も後退する。法人税などの税収が減り、増税効果も薄れます。消費増税は景気対策とセットでなければ失敗します。

国会議員も公務員も身を切る努力が足りない。あらゆる歳出を抑え込む姿勢を見せるべきです。衆参両院で722人の議員が本当に必要なのか。国会議員をドンと減らしたら、国民は拍手喝采するので、それを断行するリーダーが現れることを期待します。

10兆円規模の生産誘発が消滅

――住宅は値段が高いだけに消費税率が上がると税負担が重くなりますね。

樋口 住宅購入のうち土地の部分には消費税がかからない。それでも新築住宅の建物部分が2千万円の場合、消費税率が10%になれば税負担が100万円増えます。住宅取得層の半数は30代。彼らの年収は、この10年あまりで激減(70~80万円減少)し、35歳~39歳の年収は500万円ほどになっています。住宅にかかる消費増税負担は若年層の夢を奪うものです。

過去の消費増税プロセスでも、駆け込み需要とその反動減による市場の混乱や住宅市場の縮小を招きました。ちなみに新築住宅着工は1989年の消費税3%導入の時に約20万戸、97年の5%増税では約30万戸減りました。同じパターンで2014年に8%、翌年に10%に引き上げた場合、駆け込み需要を差し引いても増税のたびに約20万戸の住宅着工が減少するでしょう。

私が会長を務める住宅生産団体連合会では、持家20万戸の減少により、10兆円規模の生産誘発が消滅し(税収も1兆2千億円減少)、約80万人の雇用誘発効果が失われると試算しています。

――過去の悪夢の繰り返しですね。

樋口 住宅業界を挙げて国会議員に陳情し、民主、自民、公明の3党の修正協議で、住宅購入については消費税の2段階の増税時に、それぞれ影響緩和策を打つことになりました。しかし、政府が検討しているのは不動産流通税の減額や住宅ローン減税の延長であり、それでは消費税の負担増に到底及びません。我が業界としては、住宅を購入した人に対して、消費税率5%を超える部分に相当する金額を還付又は給付することを要望しています。

――財政当局の理解を得られますか。

樋口 この機会に「課税対象とは何か」を問いたい。生活必需品には課税しない制度を持つ国は多い。省エネ・創エネ・蓄エネの機能を強化した、高気密・高断熱の長期優良住宅は社会資本財としての側面を持ち、先進諸国では住宅の消費税について政策的な軽減措置が講じられています。標準税率が20%のイギリスは住宅の税率はゼロ。同19%のドイツは非課税。同20%のイタリアは初めて購入する住宅は軽減税率4%。同13%のカナダは還付により実質5.2%の税負担。同8.875%のアメリカのニューヨーク州も非課税です。我が国でもエコ時代の街づくりにふさわしい100年も200年も住める優良住宅を増やそうという考え方が広がってきました。住宅は自動車のような消費財とは違います。住宅を消費財と位置付ける固定観念から脱け出す時期だと思います。

2年後に「2兆円企業」を目指す

――前期は被災地で約1万1千戸の仮設住宅を建設し、連結売上高が9%増の1兆8488億円になりました。

樋口 今期の売上高は1兆9千億円の見通しですが、社内では1兆9500億円をめざせとハッパをかけています。この勢いなら、2年後には2兆円企業になれそうです(笑)。

――「フカケツノ」というキーワードで新事業を開拓していますね。

樋口 「フ」は福祉、「カ」は環境、「ケ」は健康、「ツ」は通信、「ノ」は農業。それぞれニュービジネスに挑戦しています。最近、楽しみなのは農業。現在70億の世界人口は2050年までには90億を突破し、食料需要は急増します。ところが、我が国の食料自給率は40%に届かず、高齢化で担い手も減ります。食料増産には「農業の工業化」が必要です。4月にプレハブ技術を応用した植物工場ユニット「アグリキューブ」を発売しました。駐車場1台分のスペースにコンテナ型工場を設置し、栽培棚に液体肥料を含んだ水を循環させる仕組みです。23種類の野菜栽培マニュアルを備え、農業経験のない方でも簡単に栽培できます。まずはレストランなど外食向けに販売します。すでに500件の問い合わせがありました。将来はビル丸ごと植物工場とか、コメや麦の穀物工場を開発したい。

「何をしたら儲かるか」という発想ではなく、「どうしたら世の中の役に立つか」を判断基準に新事業を開発しています。その精神は、創業者の石橋信夫から受け継いだものです。

さらに楽しみなのは、大型リチウムイオン電池(セル)の開発製造を手がけるエリーパワーの躍進です。6月に年間100万セルを生産する全自動量産工場が完成。釘で刺しても発煙、発火しない世界最高レベルの安全性を確保したセルの量産に成功したのです。当社はエリーパワーの創業を支援し、主要株主になっています。

我が社は戸建て住宅に太陽光発電システムと家庭用リチウムイオン蓄電池、独自に開発した(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)を搭載したスマートハウスを販売しています。昼間は太陽光で発電した電力を使い、余剰電力を電力会社に売ります。夜間は安い深夜電力を蓄え、それを昼間に使うことで光熱費を抑えます。その中核となる蓄電池はエリーパワーの高品質セルを用います。

   

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