2012年5月号
LIFE
by C
国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会が着々と参考人聴取を進めている。メディアはほとんど報じないが、見応えは十分。言い逃れに終始する班目春樹原子力安全委員長や役立たず歴然の寺坂信昭・前原子力安全・保安院長らの無責任ぶりをあぶり出し、米国原子力規制委員会のメザーブ元委員長の聴取では彼我の規制当局の使命感、能力の差を浮き彫りにした。聴取では菅直人前首相ら大物を積み残しており、見せ場をまだまだつくってくれそうである。
国会の事故調は、政府と民間の両方の原発事故調査検証委員会が水面下で関係者から事情聴取し、生の声を一切出さないのと対照的に、参考人聴取をすべて公開、一部始終をインターネットで流している。やりとりは緊張感にあふれ、下手なテレビ番組よりはるかに面白い。参考人が逃げをうったり、はぐらかしたりしても、委員から手厳しい質問が矢継ぎ早に飛ぶ。
例えば3月末の聴取はこんな具合。原発周辺の防災区域拡大を拒否した過去の文書をめぐり、参考人が「決裁は記憶にありません」と逃げると、委員がやおら冊子を出して「これは当時の議事録ですが、見ますか? 記憶が喚起されると思いますが」「(安全行政に)こんな大事なこと、(あなたが)説明を受けなかったはずはないと思いますが?」と畳みかける。
参考人がはぐらかすたびに手元の議事録を指して厭味たっぷりに「これご覧になります?」と迫る委員。窮する参考人。追及はここまでやるのかと思わせるほど。ちなみに参考人は原子力安全委事務局長や原子力安全 ・保安院長を歴任、事故直後に内閣参与に就いた広瀬研吉氏だ。
安全委の方針に沿って安全行政をするはずの保安院が広瀬氏の院長時代に安全委の防災区域の拡大方針にメモを提出して横やりをいれた。聴取ではその経緯を問い質し、国民の安全第一と言いながら電力業界の言いなりになって安全規制をねじ曲げてきた保安院の体質を浮かびあがらせた。問題視した体質は、電力業界の意を受け停止中の原発の再稼働に向けて安全基準を恣意的に決める野田政権にも共通するから、事故調は保安院を責めながら野田政権を牽制しているかのようである。
委員長の黒川清・元日本学術会議会長は福島原発事故が歴史に残る大事故であることを考えると原因や背景の検証結果、教訓を世界で共有すべきと説いてきた。だから参考人聴取は英語の同時通訳も流し、英文の議事録も公開している。原子力安全への責任感と覚悟の有無、1万年先の人類に責任を持つという視点で調査すると公言し、関係者の発言や教訓を歴史にきちっと残す気構えはなかなかである。
黒川委員長は野田政権が1月に保安院と原子力安全委を統合する原子力規制庁設置法案を提出した時にも事故調の提言まで法案を棚上げせよとかみつき、骨のあるところを見せた。事故に関しては東電の勝俣恒久会長、清水正孝前社長ら、それに菅前首相、当時官房長官だった枝野幸男経産相、経産相だった海江田万里氏らが公の場で真相を語っていない。事故調の報告書は6月。国民のためにも、世界に教訓を知らしめ歴史に記録を残すためにも、黒川氏が信念を貫いて大物を事故調に引っ張りだし、公の場で洗いざらい話させることに期待したい。