許し難い福島弁護士会の「エゴ」

原発賠償交渉で「よそ者に縄張りを荒らされるな」と、県民無視で日弁連の出張所に難色?

2012年5月号 DEEP

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日弁連の宇都宮健児会長

写真/大槻純一

「事務所の件ですが、ちょっと難しいと思います」

今年3月末、福島市で福島県弁護士会の面々が発した言葉に、日本弁護士連合会(日弁連)幹部は唖然とした。東京電力福島第一原発に隣接する南相馬市内に、日弁連は出張所として「南相馬ひまわり基金法律事務所」(仮称)の開設を予定していたが、地元にはねつけられたのだ。

関東弁護士連合会と東京弁護士会など都内の弁護士が所属する東京3会は、昨年10月からボランティアで福島県内にのべ1千人超の弁護士を送り込んでいた。だが、東日本大震災から1年経っても、東電による原発賠償が遅々として進まない。原発紛争解決センターへの和解仲裁(ADR)申し立てにいたっては1600件にも達し、この2カ月でほぼ倍増している。

県で130人の超過疎地

一方、福島県の地元弁護士は130人強に過ぎない。福島県弁護士会のHPによると、「グラウンド・ゼロ」の南相馬市では登録弁護士がわずか5人。県弁護士会が設置した原発事故被害者救済支援センターが申し立てたADRは数件に過ぎない。文字通りの弁護士“超過疎”地で絶対数が足りないのだ。

日弁連は同じ3月末に「原発事故被害者援護特別立法を求める緊急集会」を東京・永田町で開催している。民主党原発PT座長の荒井聡衆院議員やみんなの党の柿沢未途衆院議員らが駆けつけ、「被害者と東電の賠償交渉が被害者の圧倒的劣位の中で進められている」と中央と地方の弁護士が協力する挙国一致体制への期待をにじませた。

政府から1兆円支援を得る条件として、東電は「迅速な賠償支払い」「和解仲介案の尊重」などの「五つの約束」を誓ったが、昨年9月に申し立てられたADRは和解までに半年もかかっている。損害賠償実務を加速させたいという願いから、日弁連は事務所開設による対東電の共闘を福島県弁護士会にもちかけ、事務所の設置場所も建設業者も決まっていた。

にもかかわらず、福島県弁護士会は「ノー」。弁護士法では、弁護士事務所の新規開設には各県弁護士会の登録が義務付けられている。それを盾に福島県弁護士会が守りたかったのは、自分たちの希少価値、すなわち賠償交渉の代理人を独占する利権である。県民の幸福追求権、生存権、財産権なんてそっちのけの保護主義なのだ。

騒動の発端は今年1月19日。ユーチューブ出演で名が全国区となった南相馬市の桜井勝延市長が日弁連を訪れ、宇都宮健児会長、海渡雄一事務総長と面談、東電に対する損害賠償請求に協力してほしいと要請した。

「福島では弁護士よりも東電職員のほうが積極的に説明会を開いている」「損害賠償を請求できるのに権利を放棄させられている被災者が増えている」といった現場の声を桜井市長は耳にしている。そこで「損害賠償の集団申し立てが本格化するので、ぜひ事務所をつくってほしい」と日弁連に頼みこんだ。

渡りに船と動いたのは関東弁護士連合会と東京3会。東京パブリック法律事務所等の支部を開設しようとしたが、福島県弁護士会から「前例がない」「福島側が主導権を取れないなら、差し止めて最高裁まで争う」とあからさまに拒否された。規模と専門性で勝る中央の法律事務所が常駐化すれば、なし崩し的に県外の弁護士が福島に進出し、「地元弁護士は飯の食い上げ」と恐れている。原発事故の賠償規模は4兆円を上回るとされるだけに、福島は今や「日本で一番ホットなリーガル市場」。大阪のクレサラ系弁護士事務所も報酬を割り引いて、若手弁護士を投入し始めた。

福島県弁護士会が頑なな防御姿勢をとったため、助け舟を出したのが日弁連。出張事務所の名称を「東京パブリック」から「ひまわり」に変え、東京色を薄めて日弁連主導で運営するとしたのだが、それでも福島側は「一般民事事件は取り扱わないでほしい」と警戒姿勢を緩めなかった。そして決裂である。

「身内争い」東電を利す

一体、福島県弁護士会は何を考えているのか。東電は少額の和解交渉にも弁護士をつけ、物量では圧倒的に優位なのに「身内争い」とは。東電は長島・大野・常松法律事務所などをアドバイザーにすえ、賠償請求にはコールセンターの要員を含めて1万4千人を投入する大布陣だ。

東電は福島第一原発から30キロ圏内の住民に向け、損害賠償請求手続きに関する資料を6万2千通発送、返ってきたのがゼロ査定4千通を含め2万6千通だった。つまり、まだ3分の2の住民が和解に至っていない。

ただでさえ「資料は膨大で分かりにくい」ため、法律相談のニーズが大きい。本人申し立ては、申請書の記載が不十分で東電が認否を留保するケースも多い。「被災者への賠償支払いは喫緊の課題。賠償の請求書を出せる人はまだいい。書き方が分からない、賠償という概念すら分からない人もいる」と平野達男震災復興相も国会で強調している。にもかかわらず……。

批判を察知したのか、福島県弁護士会は「ひまわり」とは別に共同事務所を南相馬市内に設置するという。だが、24坪しかない事務所の真ん中に間仕切りを立て福島と日弁連を分ける縄張り根性。土日は休業で、弁護士は平日の朝10時から午後4時の間しか置かないそうだ。単なるアリバイづくりか。4月第三週の週末には、数百人規模の市民が法律相談に来る予定だが、どうさばくつもりなのか。

阪神大震災でも、兵庫県弁護士会が大阪の弁護士を追い返そうとした。エゴと閉鎖性は弁護士業界の悪弊である。そのリトマス試験紙の一つが、日弁連会長選挙だ。現職の宇都宮会長に対抗して、東京弁護士会元会長の山岸憲司氏が出馬。得票数で勝ったが「全国に52ある弁護士会のうち3分の1以上の支持を得る」を満たせず、4月27日に第三回投票が行われる。

現在、年約2千人生まれる司法試験合格者数を、山岸氏は1500人にまで減らせと提案し、宇都宮会長が支持基盤として狙う地方弁護士会が1千人を主張している。弁護士の顧客軽視は業界全体の病だ。

   

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