退路を断った野田さん 前進できぬ駒はない!

谷垣 禎一 氏 氏
自由民主党総裁

2012年4月号 POLITICS [インタビュー]
インタビュアー 本誌 宮嶋巌

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谷垣 禎一 氏

谷垣 禎一 氏(たにがき さだかず)

自由民主党総裁

1945年京都府生まれ。67歳。東大法卒。弁護士。元文相の父、谷垣専一氏の急逝に伴う83年衆院補選で初当選。97年初入閣・科学技術庁長官。小泉内閣で3年にわたり財務相。連続当選10回(京都5区)。2009年9月より現職。

――3月初めに福島、宮城、岩手の被災地を回った印象はいかがでしたか。

谷垣 震災から1年を経てもガレキの山だらけ。高さ20メートルの巨大な野積みには驚きました。ガレキの最終処理は5%しか進まず、復興関連予算の執行も55%にとどまっています。東北地方では5人に4人が「復興は進んでいない」、5人に3人が「政府の対応に問題がある」と嘆いています。

――政府の責任は重いですね。

谷垣 民主党政権は、そもそも「行政統治」が未熟で、誤った政治主導が禍根を残しました。最悪のケースは福島原発事故。民間の事故調査委員会の報告書は、首相官邸の危機対応は「稚拙で泥縄的」と断罪しています。事故を食い止めようと懸命になっている現場に、当時の菅首相や関係閣僚らが頻繁に介入し、大混乱を招いたと。総理が為すべきことと、専門家に任せるべきことの区別がつかず、海水注入を止めろと細部にこだわり、衆知を集めることも、的確な判断もできなかった。

――文字通りの「菅災」ですね。

谷垣 昨年3月19日、菅さんから入閣要請を受けましたが、あまりの唐突さに呆れました。私が副総理として入閣したとしても、菅総理の下では満足な仕事はできなかったと思います。

菅さんと野田さんの資質の違い

――2月25日に野田さんと極秘に会談したと騒がれていますね……。

谷垣 いや、会っていません。

――4日後の党首討論ではお互い歩み寄っているように見えました。野田総理は、谷垣総裁と「表でも裏でも大いにやってしかるべきだ」と語っています。菅さんとは資質が違いますね。

谷垣 お二人の比較は難しいですが、菅さんは明らかに自民党と違ったことをやろうと考えていた。それが現実味のない政策に繋がったが、野田さんは自民党と違ったことをやろうとは、あまり考えておられないと思います。菅さんとは共に当選10回の同世代ですが、これまで一度も食事をしたことがない。野田さんは干支でいうと一回り下ですが、彼に言わせると、代議士になって初めて飯を食った先輩議員が私なんだそうです。確か新聞記者の紹介で、松下政経塾1期生で面白い奴がいると、居酒屋で呑んだ記憶があります。彼の一升酒はホンモノですよ(笑)。

――毎日新聞の世論調査によると、政党別支持率は民主が14%、自民が13%で、二大政党合わせて30%に満たない。一方、「大阪維新の会」の国政進出に期待する声が61%に達しました。「橋下旋風」をどう見ますか。

谷垣 今の既存政党による議会政治では諸々の問題を処理できないという苛立ちが充満している。昭和の初め、腐敗した政党政治に憤る青年将校が蜂起した。当時と同じではないが、出口のない世相、閉塞感は似ていると思う。

――橋下氏には退路を断った凄みがある。その突破力が人々をひきつけ、勢いは容易に衰えないと思います。

谷垣 その点では、野田総理も今国会での消費増税法案に命運をかけています。「今さえよければという政治から、将来の世代を慮る政治の第一歩。不安を失くす前提条件になる」という考え方は共有できるし、先の党首討論では、仮に51対49の党内世論でも、手続きを踏んで決めたら、反対勢力を切り捨てても前に進む考えを示した。結局、一番の問題は、総理の足元が乱れてきていることです。小沢元代表は消費増税法案の閣議決定や採決時の反対を明言し、連立相手の国民新党の亀井代表は「やめなさい!」と叫んでいます。このままだと党内が液状化し、にっちもさっちもいかなくなるでしょう。

消費税増税は、誰が考えても民主党のマニフェスト違反です。本当にそれを成し遂げたいなら、まず党内をまとめ、そして国民との信頼関係を作り直すべき。つまり衆院解散で国民の信を問うのが先です。総選挙の後なら、いかようにも話し合うことができます。

国民に真実を語り決断する政治

――自民党は2010年の参院選で「消費税10%」を公約に掲げた。政権奪還に向け早期解散を迫る一方で、消費増税法案成立と引き換えに「話し合い解散」を模索する動きもありますね。

谷垣 話し合い解散とは、どういうものかわかりませんが、まずは与野党が激しくぶつかり合わないと、話し合いもへったくれもないと思っています。

――「3・11」から早1年。日本の復興再建にとって最も大切なことは?

谷垣 将棋の十六世名人、中原誠さんは宮城県塩釜市の出身ですが、被災地のガレキの山を視察しながら、中原名人の「前進できぬ駒はない」という座右の銘を思い出しました。

我が国ほど家族、地域、国との絆を大切にする有徳で勤勉な国民はありません。ガレキの山を見れば気が滅入るし、原発被災者の皆さんはいつ故郷に戻れるのか、先の見えない不安な日々を送っています。国が一歩前に出て、復興の工程表を作り直し、厳格に管理して進めていくことが必要です。そして、我が国全体が復興再建に向けて、今日より明日、明日より明後日へと、日々前進しなければなりません。

デフレからの脱却、財政の効率化、税制改正により、財政を再建し、次世代への責任を果たすことも大切です。国民に真実を語り、勇気をもって決断する政治が求められていると思います。

――自民党は変わりましたか?

谷垣 大きく変わっただけでなく、結党の原点を再認識することができました。我々はバラマキなんかしません。自助を基本とし、共助、公助はそれを補うとの考えで、社会政策、経済政策を行います。経済の再生と成長のため、研究・技術開発を推進し、一極集中の是正など強靭な国土造りにより、需要と雇用を創出します。震災復興でも外交・安保、経済政策でも、我々ならもっとうまくやれる。国民の皆さんに安心していただけるという思いが募ります。

   

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