編集者の声・某月風紋

2012年4月号 連載
by 宮

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3・11早朝。読売新聞に泣けた。『名文どろぼう』の竹内政明さん(論説委員)が「編集手帳」に記(しる)す。〈使い慣れた言い回しにも嘘がある。時は流れる、という。流れない「時」もある。雪のように降り積もる〉

なるほど朝刊1面を飾った写真は186の御霊(みたま)が消えた非業の地、仙台市若林区荒浜の雪景色。12月に建立された高さ2・5mの慰霊塔は降りしきる雪にかすみ、祈りの塔を抱きかかえるように、うずくまる2人の遺族を写す。竹内さんはこうも書く。〈口にするのも文字にするのも、気の滅入る言葉がある。「絆」である。その心は尊くとも、昔の流行歌ではないが、〽言葉にすれば嘘に染まる…〉と。

3・11午後。内幸町の東電本店へ。殺風景な大会議室に整列した山崎副社長以下約200人の幹部社員。その時(2時46分)に合わせて黙祷を捧げ、スクリーンに映し出された西澤社長が、福島第一原発の免震重要棟から謝罪文を読み上げる。発災から2カ月は本店近くの社員寮に雑魚寝したという幹部は「生きた心地がしなかった」と漏らす。そして5万2千人余の従業員の人生は暗転した。

3月5日。東電株主42人が事故当時の全取締役を含む27人に、総額5兆5千億円の損害賠償を求める株主代表訴訟を起こした。株主側は「地震頻発国で原発を設置・運営する会社の取締役の善管注意義務違反」を追及する。

訴状を読んだ弁護士は「説得力がある」という。被告全員が家財没収(自己破産)の瀬戸際だ。我が国の9電力は例外なく原発を設置・運営しており、その取締役は途方もないリスクを負う。

3・11夕刻の東電会見。「もはや民間会社では原発は無理。国営にしなければ社長を引き受ける人がいなくなる」と問われた相澤副社長(原子力・立地本部長)は「どうしたらいいか…」とうつむいた。

   

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