国税庁をねじ伏せた創価学会、選挙に巨費を投じた幸福の科学の「錬金術」を許すな!
2012年3月号 LIFE
09年夏の衆院選で演説する幸福の科学の大川隆法総裁
宗教家から「清貧」というイメージがなくなったのはいつからだろう。「坊主丸儲け」という言葉に象徴されるように、宗教家といえば、いまでは税金をほとんど払わずに済まされている特権階級と思われている。
それを裏付ける話は枚挙にいとまがない。元東京国税局査察部職員で『マルサの視界』(法令出版)の著者、上田二郎氏(僧侶でもある)はこう話す。
「私の寺では公私混同がないように現金出納帳もキチンとつけています。しかし税務署に申告義務のない宗教法人(出版物などによる収益事業がなく、お布施などの公益事業収入が年間8千万円以下)の中には、誰からも会計帳簿のチェックを受けないので丼勘定になっているケースが多い。お布施や塔婆料などの収入を除外して住職が個人的に費消する例があとを絶たないのが現状なのです」
では税務署に申告義務のある規模の大きい宗教法人の場合は、申告、徴税ともキチンと行われているかというと、これもはなはだ疑問なのだ。それを象徴するのが1990年代初めの創価学会による税務調査妨害事件だ。
創価学会は戦後ずっと本格的な税務調査を受けなかったが、89年に1億7千万円入りの金庫を学会側が誤ってゴミとして捨てた事件が発覚。国税庁からマークされ、90年から92年にかけて2度にわたり、初の本格的国税調査を受けた。
企業などの法人は少なくとも数年に一度、本格的税務調査を受けているのに比べ、驚くべき寛容さを示してきた国税庁がようやく重い腰を上げたのだ。
だが結局、この税務調査は事実上不発に終わり、学会の申告漏れは大幅減額、国税庁が徹底マークした池田大作氏の個人所得への課税も見送られた。
その舞台裏を初めて明らかにしたのは、昨秋出版された『乱脈経理 創価学会vs国税庁の暗闘ドキュメント』(講談社)だった。著者の矢野絢也氏は1967年に公明党衆院議員に当選以来、86年まで党書記長を務め、その後、党委員長に就いた公明党の元最高首脳だ。
矢野氏は、創価学会の池田名誉会長ら学会首脳の強い要請を受け、自らが中心になって税務調査を妨害したという。矢野氏は書いている。
〈税務調査と相次ぐスキャンダルの発覚に池田氏は激しく動転し、まるで悲鳴をあげるように学会と公明党首脳らにわめき散らし、叱りつけた。池田氏がパニックになったのは他でもない、池田氏自身が国税庁のターゲットになっていたからだ。国税庁は池田氏の個人所得を洗い出し、法に基づき厳格な課税を実施する構えをみせていた〉
税務調査の最大の争点は池田氏の「公私混同」だった。池田氏の所得は『人間革命』などの出版物の印税収入が中心(過去の最高納税額は94年度の2億4109万円)だが、一方で、池田氏は自分専用の豪華な学会施設を、賃料を払わずに利用するなど数々の公私混同の疑いを国税庁から指摘された。
なかでも国税庁が注目したのは池田氏が自分の好みで購入した絵画などの高価な美術品だった。池田氏の絵画購入費用はほぼすべて学会持ち。美術品は膨大な数に上り、学会系の美術館や学会の関連施設などに飾られたり、倉庫に保管されたりしていたが全容は不明。美術品の財産目録すらなかった。
学会関連施設に飾られた絵について池田氏が「どうだ。いい絵だろう。オレの絵だ」と、矢野氏に自慢し、いつの間にかそれが池田氏の自宅に飾られていたこともあったという。
P献金(Pはプレジデント、つまり池田氏のこと)などの問題もあった。池田氏は当時の公明党幹部らに折に触れてP献金を要求したとされ、矢野氏は、銀座の和光でセーターを12万円で購入し、お礼名目の200万円と一緒に第一庶務(池田氏の秘書室)に届けたことがあるという。
だが結局、国税庁は、池田専用施設のほとんどを不問に付し、美術品の財産目録についても「今後の宿題」として作成と提出を猶予。P献金なども実態不明のままで、池田氏に対する個人課税は見送られ、学会側は本部会計の貸借対照表すら提出せずに済んだという。池田氏と学会・公明党の完勝だった。
その後、現在まで学会に本格的な税務調査が入ったという話は寡聞にして知らない。
89年当時、学会のお布施(学会では財務と呼ぶ)は年間1400億円だったとされ、その後、年々増えているとみられている。また出版物や墓苑販売による収入もあり、学会の総収入は一部上場企業を軽く超える。
一方、宗教法人は憲法(信教の自由)や宗教法人法に守られ、税制面でも様々な優遇を受けている。まずお布施は非課税。法人税の軽減税率の適用や預貯金利子に対する非課税、墓地や境内建物用の不動産取得税、固定資産税も非課税、といった具合で至れり尽くせりなのである。
そうやって溜め込んだ豊富な資金力と学会員の献身的な選挙活動によって、学会は中央政界に確固とした足場を築き、国家権力に影響力を行使できるまでになったのだ。
そんな学会を真似たのが「幸福の科学」(大川隆法総裁)である。幸福の科学は財力を蓄え、09年5月に「幸福実現党」を結成。衆院選に候補者を大量に擁立したが当選者はゼロ。約11億円の供託金は没収された。翌年の参院選も同じだった。
「幸福の科学が総選挙で使った金額は100億円と言われていますが、選挙は完敗。生活を切り詰め、大川総裁の著書などをせっせと買ってきた会員たちが浮かばれません」(元会員)
もともと特定の人々(信者や檀家)にしか布教活動をしない宗教団体は、学校法人や社会福祉法人に比べて公益性が低いと指摘されてきた。だが政府は宗教法人を一律に公益法人の中に入れて優遇してきた。これが諸悪の根源なのだ。
「無宗教者に対し、宗教界はどのような布教活動をし、公益性、公共性を打ち出していくのか。現在の多くの宗教法人の中で、公益性、公共性を持って活動しているところがどれだけあるか。自分の寺を省みて恥ずかしい限りです」(上田氏)
消費増税に踏み込む前に、政府は宗教団体の特権扱いを止め公平な徴税を行うべきである。