協同組合が「お金の暴走」を止める

今年は国連が定めた「国際協同組合年」。お金がすべての株式会社より協同組合組織が人間社会にとって望ましい理由。

2012年2月号 BUSINESS [特別寄稿]
by 吉原 毅(城南信用金庫理事長)

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吉原 毅

吉原 毅

城南信用金庫理事長

1955年東京生まれ。77年慶大経済卒。同年城南信用金庫へ。2010年11月より現職。自らの年収を支店長(1200万円)以下に抑え、理事長・会長任期を最長4年、停年を60歳とする経営改革を断行。「原発に頼らない安心できる社会」の実現をめざした独自の活動を展開。信用金庫業界をリードする論客である。

2012年は国連が定めた「国際協同組合年」です。私たち信用金庫も協同組合にルーツを持つ金融機関ですが、その他にも、労働組合や生活協同組合、農業協同組合など、さまざまな協同組合が、日本で、そして世界で独自の活動を展開しています。ではなぜ、国連が今、「国際協同組合年」というものを定めたのでしょうか。

2008年にリーマン・ショックが起きた際に、アメリカの国家戦略である金融資本主義を担っていた大手証券会社が、サブプライムローンの影響で、ことごとく倒産しました。その結果、市場原理主義や資本主義経済のメカニズムが、人間の幸福にとってプラスにならないのではないかという疑念が湧き起こったのです。

個人主義が生んだ妄想

「お金がすべて」という考えが蔓延した資本主義社会は、「人の幸せとは何か」「国家社会とは、そして人間同士の関係とは本来どうあるべきか」といった人間社会の本質的な問題から外れていく性格を持っています。人々の間にさまざまな格差を生み、人と人との繋がりを断ち切ってしまいます。

しかし、こうした問題は、何も今、初めて分かったことではありません。古くは、プラトンが『国家論』の中で指摘し、またアダム・スミスが『諸国民の富』の中で、「株主の利潤を追求する株式会社は、国家社会にとって望ましくない」と警告しています。マルクスもケインズも「市場を野放しにすることは危険だ」と警鐘を鳴らしていたのです。人間とは、元来、我が儘で自分勝手な生き物です。だからこそ、お互いに話し合い、道徳や倫理、良識を持ち、健全な社会、健全なコミュニティーをつくらなければならない。そうした健全なコミュニティーの中でこそ、お金も健全に使われるのです。逆に、人と人がお金だけの関係になり、市場を野放しにすると、お金は人の心をばらばらにし、孤独にし、狂わせ、暴走させます。良識やモラルが崩壊し、拝金主義に陥り、バブルや多重債務、犯罪など、悪いことでも止まらなくなります。現代社会の問題は、要はお金の暴走です。そして、お金の本質は、実は個人主義が生んだ最大の妄想であり、一種の麻薬です。そうしたことを再認識しなければならない。そのためには、「利潤のみを目的とする株式会社よりも、人々が話し合って良識ある経営を志向する協同組合の方が、人間社会にとって望ましい」という考えから、今年が「国際協同組合年」に指定されているのです。

協同組合のルーツは、1844年にイギリスで創立された「公正先駆者組合」です。当時のイギリスでは、産業革命が急速に進展した結果、貧富の差が拡大して、社会の混乱を招いていました。労働者は安い賃金で長時間労働を強いられていました。こうした中で、マンチェスター郊外のロッチデールで、労働者や庶民がお金を出し合って会社をつくり、一人一票の平等な原則で経営を始めました。そして、皆がお互いに話し合い、助け合って、豊かで安定した生活を営める理想社会をつくるという協同組合運動が、世界中に広まっていきました。

協同組織の理想に回帰

日本では、1900(明治33)年に産業組合法が制定され、現在の生活協同組合や農業協同組合、信用金庫のルーツである産業組合が誕生しました。1945年には、城南地区の15の信用組合が合併して、当金庫ができましたが、その実質的な創業者である小原鐵五郎元会長は「信用金庫は公共的な使命を持った金融機関」「金儲けが目的の銀行に成り下がるな」等の言葉を通して、良識ある金融、節度ある金融の大切さを説きました。このように本来、信用金庫とは、地域社会の中で健全なコミュニティーを築き、人々の生活を守り、人々の幸せを実現するという使命を持った、社会貢献のための公共的金融機関なのです。

実は、日本の企業も、「日本的経営」という名の下に、コミュニティーを大切にしてきました。ところが、高度経済成長、バブル経済、日米構造協議、金融自由化を経て、アメリカ流の自由主義、個人主義が浸透するにつれて、日本企業も、目先の利益と効率を重視する成果主義に走り、組織がバラバラになり、元気を失ってしまいました。

現在の日本の企業も、学校も、家庭も、いじめ、幼児虐待、高齢者の孤独死、家庭崩壊、自殺者の増加など、さまざまな問題を抱えています。こうした閉塞した社会だからこそ、人を大切にする、思いやりを大切にする、そしてコミュニティーを大切にするという協同組合の掲げた理想、理念が必要とされているのではないでしょうか。

昨年、東日本大震災が起き、福島第一原発事故により首都圏までもが放射能汚染の危機に晒されました。私たち城南信用金庫の役職員は、「地域の人々の生活を守り、地域社会の発展に貢献する」という協同組合の精神の下に、被災地でのボランティア活動や駅前での募金活動、「原発に頼らない安心できる社会」の実現をめざした活動を積極的に展開しました。

そうした中で、私たちは、人と人との心を繋ぎ、連帯を回復することで、生きる活力や、喜び、希望が生まれることを学びました。私たちの活動に対して、多くの賛同の声が寄せられ、共感と信頼の輪が拡がっていることも実感しています。これからも協同組合の精神に徹して、できるだけ多くの人たちと、共に学び、成長し、日本を、そして世界を明るく元気にして、健全で幸せな未来を築いていきたいと考えています。

   

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