孫正義の「悪夢」iPhone5のオープン化

2011年10月号 BUSINESS

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ソフトバンクの孫正義社長

AFP=Jiji

好調アップルの創業者スティーブ・ジョブズが癌を理由に一線から退き、ジョブズの片腕だったティム・クックCOO(最高執行責任者)が後任のCEO(最高経営責任者)に昇格した。コンパック出身のクックは営業とMac部門を統括してきたが、地味な印象でカリスマ性に欠けるため「ジョブズのような魔術師になれるのか」と不安視する向きも多い。

ジョブズの引退に備えていたのだろうか、アップルはiPhoneの販売戦略では、複数の携帯電話事業者に端末を販売させる「マルチキャリア」路線を本格化させ、量を稼ぐ作戦に出ている。スマートフォン(スマホ)のシェアではアンドロイドに逆転されているだけにクックは巻き返したいのだろう。

米国にはこれまでW-CDMA版iPhoneしかなく、AT&Tの独占販売だったが、この2月からCDMA2000版を加え、業界2位のベライゾンも取り扱いを開始した。10月に登場が噂される次期iPhone(iPhone5)では、業界3位のスプリント・ネクステルの名前も囁かれている。DigTimesという米国メディアによると、iPhone5の出荷台数は11年第4四半期だけで2200万台に達するメガヒットになると目されている。

翻って日本ではどうか。ソフトバンクモバイル(SBM)がiPhoneを独占販売している現状から、一転して「マルチキャリア」になれば、孫正義社長にとっては悪夢。設備投資をケチったため「すぐ切れる」「つながりにくい」というユーザーの不満は爆発寸前で、ドコモ版iPhone待望論は強い。ところが、6月の株主総会で辻村清行ドコモ副社長は「iPhoneを発売する予定はない」と明言して驚かせた。もっとも、その後のぶらさがり取材で「あれは間違い」と言い直している。

アップルのクック新CEO

AP/Aflo

ドコモ版iPhoneに関しては、驚きの情報もある。iPhone5に採用される予定の新OS「iOS5」の開発者版では、なんと世界中のキャリアの中でドコモのSIMに対してのみロックがかけられているというのだ。孫正義社長がアップルにねじ込んでロックをかけさせたのでは、などと憶測が飛び交った。

ただ、別の見方をすれば、ドコモ対応への布石とも受け取れる。APNと呼ばれるアクセスポイントの設定が他社に変更できないようにロックされているからだ。ドコモのスマホの多くもロックされている。つまり、ドコモ版iPhone5専用OSを準備する一環という見方だ。

米国ではCDMA2000版iPhoneが登場しているだけに、同じ通信方式のau版iPhoneへの期待も高まっている。KDDIの田中孝司社長は以前、iPhoneに関して「ノーコメント。肯定も否定もしない」と微妙な発言をして注目されたが、最近のauのスマホ戦略を見ると、なにやらキナ臭い。

KDDIはアンドロイド端末発売時に「Android au」と銘打ってグーグルとの蜜月をアピールしたが、7月のウィンドウズPhone7.5端末の発表会では、日本マイクロソフトの樋口泰行社長が登壇、マイクロソフトとの蜜月ぶりを強烈に見せつけた。田中社長は「アンドロイドだけではいけないという認識。形やプラットフォームにとどまらず、いろいろなものを揃えていく必要がある」と答えている。

auは全方位戦略でいくと明言したにひとしい。スマートフォンで出遅れたauにとって、月間純増レースでSBM常勝神話の立役者となったiPhoneは、喉から手が出るほど欲しいはず。問題はアップルがどこまで譲歩してくれるかであろう。アンドロイドとウィンドウズの挟み撃ちのなか、アップルもいつまでも強気ではいられまい。(敬称略)

   

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