孫が「中国版LTE」音頭でジョブズ釣る?

2011年4月号 BUSINESS

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やっぱり、である。本誌が1月に報じたスクープ「孫が企む『中国版LTE』連合」(11年2月号)どおりの展開になってきた。ソフトバンクの孫正義社長は2月、スペイン・バルセロナのモバイル通信展示会「モバイル・ワールド・コングレス」(MWC)にあわせて開かれた「LTE TDD/FDDインターナショナル・サミット」で、TDD(時分割復信)方式の普及を推進する団体の設立を発表したのだ。

この団体は「グローバルTD−LTEイニシアチブ」といい、中国移動通信(チャイナモバイル)やインドのバーティエアテル、英ボーダフォンの首脳らと合意したものだ。モバイル通信の巨大市場として有望視されている中国やインドの事業者とともに「時分割陣営」を結成し、スケールメリットで機器や設備類のコストダウンを進めようという目論見だ。

その際、孫社長は日の丸技術であるXGPに関して「TD−LTEと100%互換性がある」と「言っちゃった」(業界関係者)ため、波紋が広がっている。孫氏が言うXGPは、ウィルコムから引き継いだ日の丸技術「次世代PHS」としてのXGPではない。ソフトバンクとともに欧州や中国の名だたる海外ベンダー5社が出資する「ワイヤレスシティプランニング」(WCP)が推進する次世代のXGPのこと。いわば進化形のXGPである。本誌では前出の記事で「アドバンスドXGP」という言い方で紹介した。

「互換性」とは、実に便利な言葉だ。TD−LTEとアドバンスドXGPは、あたかも別技術であるかのような印象を与えるが、「ソフトバンクはこれでXGPを捨てた」と言い切る関係者もいる。機を見て敏な孫氏だけに、ウィルコムから引き継いだどん詰まりのガラパゴス規格を守り抜こうなどという発想はみじんもない。XGPの優れた時分割技術を手土産に、中国独自規格のTD−SCDMAで大失敗した中国移動が、巻き返しのために力を入れるTD−LTEに呑み込ませることで、合体をもくろんでいるのだ。

現に、ノキアシーメンスネットワークス(NSN)のラジーブ・スーリCEOは、「日本でも今年の第2四半期にTD−LTEのテストを開始する」と会見で答えた。WCPに資本参加している有力通信ベンダーのトップが「XGP」ではなく、「TD−LTE」と言い切ったのだ。

だが、ここで問題になるのはTD−LTEでのサービスが予定されている2.5ギガヘルツ(GHz)帯の扱いであろう。総務省が旧ウィルコムに2.5GHz帯を割り当てたのは、日の丸技術であるPHSからの流れを受け継ぐXGPを推進するという考えがあったからだ。孫社長は、「年内にサービス開始」を宣言したが、事実上のTD−LTEでのサービス展開は明らかに免許の条件から外れている。総務省にはどんな弁解を用意しているのか。

一部には「ハイレベルでの根回しは済んでいる」という情報もあるだけに、公には「TD−LTEと100%互換性があるXGP」で最後まで押し通す腹づもりなのだろうか。

MWCの会場でも有力ベンダーが展示に力を入れるなど、中国の巨大市場の威を借りて存在感を強めるTD−LTEだが、そのニュースは人気のスマートフォン「iPhone」にまで飛び火した。中国移動の王建宙会長がブルームバーグの北京代表に語ったところによると、アップルのスティーブ・ジョブズCEOがTD−LTEに強く興味を示し、早期に市場投入のための研究に入る方針を明らかにしたという。

もしこれが本当なら、孫氏は小躍りしたのではないか。ソフトバンクモバイルが第3世代(3G)用に使っている2GHz帯は、トラフィック(通信量)を食うiPhoneのために、首都圏を中心に限界を超えており、ホリエモン(堀江貴文氏)にまで罵倒された。TD−LTE版のiPhoneが登場すると、iPhoneのトラフィックを2.5GHz帯へ逃がすことが可能となる。

ただ、その一方でNTTドコモの周波数分割方式LTE(Xi)と一騎打ちに出たTD−LTEサービスでも、iPhoneの販売代理店と化してアップルに“土管”を提供するだけになってしまう可能性もある。それだけに痛しかゆしなのだ。

   

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