2011年2月号 GLOBAL
海外メディアの東京特派員に聞くと、日本のメディアほど堕落したジャーナリズムはないという。が、当の海外メディアはどうなのか。ウィキリークス事件で証明されたように、権力に対する監視機能を失い、伝書バトに成り下がっているのは五十歩百歩だろう。
「いったい何事か」。昨年9月29日午後2時半ごろ、任天堂IR室にはざわめきが広がった。それまで2万4500円前後とこじっかりで推移していた同社株が急に2万5000円近くにハネたかと思うと、大引けにかけ急落したのだ。
材料となったのは、収益回復のカギを握る携帯ゲームの最新機種「ニンテンドー3DS」が「10月28日に1万8千円で発売される」と報じた米国の通信社ブルームバーグの記事だった。それまでこの新機種は年末商戦に間に合わないとされていただけに、任天堂株が反応したのだ。
同日、幕張のゲームショーで任天堂幹部が報道を否定。ジェットコースターのように株価は売りに転じ、2万3000円近辺まで売り込まれた。
元凶は「スピードチーム」と呼ばれるブルームバーグ速報部隊。このチームのリーダー格の記者が、スーパーマリオなど既存のDS機種セットのパッケージ商品とニンテンドー3DSを勘違いした誤報だった。
証券取引等監視委員会が調査に乗り出したこともあり、ブルームバーグはこの記者の署名入りの誤報記事を抹消。別の記者の署名入りで、任天堂が東証大引け後に発表した業績下方修正に引っ掛けて、ニンテンドー3DSの販売延期を記事化した。
1週間後の10月6日、またもやブルームバーグが誤報を垂れ流す。「金融庁がメガバンクの自己資本規制を日本独自で強化検討」との報道に、銀行株どころか相場全体もつられて急落したが、金融庁は否定した。何のことはない、議員と立ち話したブルームバーグの記者が功に逸って飛ばし記事を書いただけだった。
記者の基本がなっていないのはニューヨーク・タイムズ紙も同じ。昨年トヨタのリコール問題を取材していた東京支局の女性記者がトヨタ本社のコーヒー販売機が壊れていることに腹を立て、ツイッターに書き込んだ。「Toyota Sucks」(トヨタくそ食らえ)。ほとんど不良のガキである。
利益相反にはならないのか――と批判を浴びているのが、経済紙ウォールストリート・ジャーナルの東京支局。同紙には「配偶者など近親者が取材先の組織に所属している場合、記者は担当を外れる」というルールがある。だが、東京支局の女性記者2人の夫たちは米大手証券会社モルガン・スタンレーの幹部なのだ。女性副支局長の夫は香港在住のバンカーで、もう一人の夫はモルスタ東京支店の最高業務責任者(CAO)。同副支局長は金融記事も書いており、モルスタのライバル企業からは「依怙ひいきの記事を書かないという保証はない」との不満の声が聞かれる。
米国系だけではない。日米の金融専門家が集まる日米金融シンポジウム。昨年は10月に箱根で開催されたが、参加者がクビをかしげたのは、退社したとの噂があった英エコノミスト誌の記者が、同誌の金融ビジネス特派員の名刺で参加したからだ。同じ肩書を持つエコノミスト誌の記者は東京にいたため、日ごろ取材を受けている参加者たちは疑問に思った。「どっちが本物?」と。
参加したのは著名エコノミストを父に持つ女性記者。編集部とのトラブルが原因で「ノイローゼになったのは会社のせい」とエコノミスト誌を訴えようとした問題児だ。本人はサバティカルと称しているが、同誌は「臭い物にフタ」とばかりに、この女性が辞めた後も社名入り名刺を持ち歩くのを黙認しているのか。
同じ英系では、経済紙フィナンシャル・タイムズも同じ穴のムジナだろう。かつてはゴールドマン・サックス批判で知られていたが、ゴールドマンが書評イベントなどの広告を入れると、とたんに矛先が鈍った。長銀破綻の本を書いた元支局長は今や「借りてきたネコ」になっている。
日本メディアが二流だ? そっちこそ鼻持ちならない先入観の持ち主で、取材も大甘じゃないか。その正体がいつまでバレないと思っているのか。海外メディア、とりわけ東京支局の記者連中は「Suck」、間違いなく三流である。