底知れぬ「中国電池メーカー」の技術革新

2011年2月号 BUSINESS

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「第25回世界電気自動車・燃料電池シンポジウム」が、昨年11月、中国・深圳市で開かれた。毎年、各国持ち回りで開催される地味な技術展示会だが、11年ぶりに中国で開催された同シンポジウムは、モーターショーと変わらぬ活況を呈し、世界の自動車メーカーが競い合うように電気自動車(EV)などエコカーの新技術を展示していた。

その中で日本の業界関係者が目をみはったのが、深圳に本社を構える「中聚雷天動力電池有限公司」による展示品だ。英語で「サンダースカイ」と訳される、日本ではほとんど無名の企業だが、自動車向けの超大型リチウムイオン電池を得意としている。その製品群は、日本ではお目にかかれないようなものばかりだ。

たとえば、放電容量800アンペアアワー(Ah)の大型リチウムイオン電池(縦850ミリ×横283ミリ×厚さ71ミリ)は平べったい形をしているが、三菱自動車のEV「アイ・ミーブ」に搭載されたリチウムイオン電池の約16倍の放電容量を誇る。この大型電池を大型バスに150個搭載すれば、1回の充電で400キロ走行できるという。

筆者は昨年12月下旬、「中聚雷天」本社を訪れた。会長補佐の張鵬氏は「日本のメディアの取材に応ずるのは初めて」と語った。同社は12月10日付で社名を「中聚雷天」から「温斯頓(ウインストン)電池」に変更。張氏の説明によると、中国には約2千社の大小電池メーカーがあり、同社はその中でも最大級で、中国の原材料を使って独自に技術開発を進めることができるのが特長だという。

会社設立は1998年。技術者である現会長の鍾馨稼氏が創業した。香港在住の鍾会長は米国の大学教授を兼務し、中米間の産学連携にも力を入れているほか、米国防総省ともパイプを持つといわれる。現在、従業員は約600人。資本金1.3億元(約16億円)、総資産310億元(約3900億円)。10年の売上高は5億元(約63億円)にすぎないが、11年は10倍に拡大する見通しだ。欧米向けが中心で輸出比率は95%。今後、ロシアやドイツ、オランダなどに工場を建設する計画。すでに15年までの注文を受けており、最近、深圳の本社工場を1日8時間から24時間稼働の交替制勤務に変え、増産体制を敷いた。

先の800Ah以外にも、1万Ahの巨大電池の開発にも成功したという。リチウムイオン電池は放熱など安全性に課題があるとされるが、米国の大手コンサルティング会社・マッキンゼーは温斯頓の技術力を高く評価。「世界で最も多くリチウムイオン電池の特許を保有し、26カ国で特許登録。米国防総省が同社の電池を調査したデータをもとに、米保険大手AIGも同社の製品を保険の対象としている」などとリポートで述べている。

温斯頓が改造したEVのスポーツカーが米国で最高時速200キロを出し、2万6千キロを走行したと、現地メディアも報じている。筆者が訪れた際も、トヨタ自動車の小型バス「コースター」や中国共産党幹部の公用車として有名なリムジンタイプの「紅旗」などがEVに改造されており、その走行実験を見せてくれた。

張氏は「新型のリチウムイオン電池を開発中であり、2年以内に商品化する予定。5分間の充電で1000キロの走行が可能になります」と、自信満々に語った。

さらに注目すべきは、リチウムイオン電池で「ストレージ電池」を開発していることだ。これは夜間に電気を蓄えるシステムで、日本でも深夜電力を活用して温水を沸かすシステムが普及しているが、熱効率などを考えると、蓄電池に充電したほうが効率的との見方もある。

現在、試作中のものは書斎の本棚を二つ繋げたほどばかでかいが、この5分の1程度の大きさの新商品を2年以内に発売し、家庭向けに普及させたい考えだ。

「中国自動車調査月報」(フォーイン発行)の周政毅編集長は「技術力はまだ半信半疑のところもあり、世界的メーカーとしては規模が小さいが、ビジョンが明確で戦略性があり、意思決定も早い。非常に勢いのある会社です。中国のベンチャー企業に世界のマネーが流れ込む傾向があり、あっという間にメジャー入りする可能性を秘めている」と分析する。

   

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