2010年8月号 BUSINESS
東京証券取引所マザーズに上場する中国系企業「新華ファイナンス」が崖っぷちに追い込まれている。
中国金融市場の情報サービスを提供する同社は、東証初の中国系企業として04年10月に鳴り物入りで上場。調達した資金を元手に企業買収を繰り返し、一時は業容を急拡大した。だが、07年12月期に営業赤字に転落すると、リーマン・ショックの追い打ちもあり、業績は坂道を転げ落ちるように悪化。買収した企業を次々に売却して縮小均衡を図ったが焼け石に水で、09年12月期は104億4900万円の連結純損失を出し、東証の規定上の債務超過に陥った。年末までに債務超過を解消できなければ、上場廃止になるところである。
追い詰められた新華ファイナンスは7月7日、インデックス提供では世界最大手の英FTSEグループとの合弁で手がける中国株式のインデックス事業を売却すると発表した。9月に開く臨時株主総会で同意が得られれば、合弁会社の持ち株を約36億円でFTSEに売却する。
これにより年末までに期限が来る約8億円の社債を償還するとともに、約24億円の特別利益を計上し、債務超過を解消するという。目論見どおりなら、年末の上場廃止は回避されることになるが、先行きは険しい。
6年前の上場時は、中国および海外の機関投資家向けのインデックス、格付け、金融ニュース、IRサービスを事業の4本柱に掲げていた。その後、広告などのメディア事業や金融ソリューションサービスにも進出。しかし、昨年までにその大半から撤退し、現時点で残っているのはインデックスと金融ソリューションのみ。FTSEとの合弁会社は09年度に約13億円の純利益を上げたトラの子だった。これを手放せば、新華ファイナンスはもはや抜け殻同然だ。同社は上場を維持して投資コンサルティングなどの新規事業に賭けると言うが、成算はあるのか。
年末の上場廃止を免れる見込みとなったことに胸をなで下ろしているのは、むしろ東証かもしれない。
東証は、外国部に上場していた欧米企業の撤退や、香港、上海、シンガポールなどアジアの株式市場の台頭に危機感を募らせ、中国系企業の誘致に躍起になった。その結果、04~07年に上場したのが、新華ファイナンス、アジア・メディア、チャイナ・ボーチーの3社だった。
だが、当初から東証の鑑識眼には限界があった。3社は中国でもほとんど知名度がない新興企業だったのに、東証の審査部門には中国語のわかるプロがいなかったからだ。
果たして不安は的中した。アジア・メディアでは創業経営者による巨額の不正流用と粉飾決算の疑いが発覚し、わずか1年余りで上場廃止。新華ファイナンスとチャイナ・ボーチーも業績の下方修正を繰り返した。前者の株価は公開後につけた最高値の150分の1、後者も15分の1以下に落ち込んでいる。
中国系企業が多数上場する香港市場には「中国概念股」(チャイナ・コンセプト・ストック)と呼ばれるジャンルがある。現時点の収益力や財務状況よりも中国市場の成長性やそこに持つ利権などが重視される株のことだ。東証が誘致した3社はいずれもその典型だったが、このジャンルは玉石混淆で怪しげな会社も少なくない。香港の投資家は、そのリスクを十分承知したうえで取引している。ところが東証は無知すぎた。
「当時はおかしな企業とは思えず、今日のような事態は読めなかった」と、新華ファイナンスの東証誘致に直接携わった関係者は話す。しょせんその程度の認識だったのだ。
東証は毎年春の「IRフェスタ」に中国系3社のトップを招き、東証国際化の広告塔にしようとしたが、アジア・メディア事件で赤っ恥をかいた。新華ファイナンスまで上場廃止になればとんだ恥の上塗り。同社が延命しても一時しのぎにすぎず、東証は早晩、自分でまいた種の刈り取りを迫られよう。