宮島 和美 氏
日本通信販売協会[JADMA]会長、ファンケル会長
2010年8月号
LIFE [インタビュー]
インタビュアー 本誌 和田
1950年神奈川県生まれ(60歳)。成城大学卒業後、ダイエー入社。故・中内功氏の懐刀として取締役秘書室長、常務執行役員などを歴任。2001年、義兄の池森賢二氏が創業したファンケルに転じ、03年常務取締役、07年社長を経て、08年より会長。今年6月、社団法人日本通信販売協会の会長に就任。
写真/小嶋三樹
――6月に日本通信販売協会(JADMA=ジャドマ)のトップになられた。消費不況の中でも通販市場は順調に伸びていますね。
宮島 おかげさまで「通信販売」は、自宅にいながらにして商品が手に入る便利な手段として、本当に多くの方々に利用されるようになりました。とりわけインターネットの普及により、ますます注目される販売チャネルになっており、流通業界の中に確固たる地位を築いています。さらに取扱商品の拡大や物流システムの進化を受け、2008年度には業界の売上高が4兆円を超えました。10年間で2倍近く伸びたことになります。JADM Aの会員会社の売上高の合計も2兆9千億円と3兆円に迫る勢いです。今後も少子高齢化やネットを中心としたメディアの進化により、さらに成長すると思います。
――順風満帆の船出ですね。
宮島 残念ながら、そうでもないのです(苦笑)。通販市場の拡大に合わせて、JADM Aの影響力が増したかと言えば、そうとは言えないからです。通販市場は右肩上がりなのに会員数は約500社で伸び悩んでおり、この2年間はわずかながら減少しています。
――なぜ、会員が減っているのですか。
宮島 一言で言えば、協会に魅力が欠けているからです。会員企業には加盟してよかったと思っていただき、会員でない企業にはJADMAに加盟しなければならないと思わせる、そんな魅力のあるサービスをできる協会にしたいと考えています。
そもそもJADMAの役割は、特定商取引法に「通販業界唯一の自主規制団体」と明記されています。法律で業界団体が規定されるケースは非常に珍しく、他の公益法人と比べて強力な地位を確保しています。具体的には、協会は「通販110番」を開設し、通販に関する消費者からの苦情・相談を処理する責務を負い、倫理要綱やガイドラインの制定・運用、売上高や利用実態の調査なども行っています。
我々の努力不足もあると思いますが、詰まるところ会員が減ったのは、会員の「ニーズ」を捉えきれていないから、「ニーズ」を満たすような取り組みが不十分だからです。企業はお客様のニーズに応えていかなければ存続できません。協会で言えば、会員がお客様ですから、そのニーズに応えねば見放される。そういう意味で、私は危機感を持っています。
――どうやって会員のニーズに応えますか。
宮島 会長就任に当たって、私は二つの方針を打ち出しました。一つは、会員からの「法律相談」を強化することです。通販業界をめぐる法律は非常に多く、複雑です。通販、訪販などの無店舗販売を規制する特定商取引法をはじめ、誇大広告を規制する景品表示法、健康増進法、さらに化粧品やサプリメントでは薬事法の遵守を求められます。加えて消費者契約法、個人情報保護法、不正競争防止法など、さまざまな法律を理解していないと大きなトラブルを招くことになります。会員の中には法的対応に十分なマンパワーを割けない会社もあります。残念ながら、法的問題で新聞に出ることもありますが、これらは故意というよりも、チェックミスや法律への理解不足に起因するものがほとんどです。
実は、JADMAでは、これまでも法律相談を受け付けていたのですが、PR不足もあり、ほとんど利用されていませんでした。法律相談の強化に当たり、経済産業省出身の専務理事と公正取引委員会出身の調査役のチームを作りましたので、今後は何なりと難しい相談をしていただけたらと思います(笑)。
――関連業界団体への天下りですね。
宮島 天下り批判が強まっていますが、一概に否定すべきではありません。高い専門知識を持つ行政マンは、民間にとって非常に助かる存在です。今後は薬事法などに対応できるスタッフの拡充を図りたいと考えています。
宮島 もう一つは「広報機能」の充実です。先の法律相談もそうですが、これまでJADMAの活動がきちんと会員に伝わっていなかった。それでは一般の消費者に伝わるわけがありません。JADMAの存在を知らしめる広報活動は非常に重要なので、私が協会広報委員会の委員長を兼務することにしました。ダイエーとファンケルで広報部門の責任者を長く務めてきましたので、そのノウハウが役立つかもしれません。そして、今年度は新規加盟40社の目標を掲げました。
――JADMAには老舗の千趣会、ニッセン、ディノス、セシールから、テレビショッピングのジャパネットたかた、百貨店の三越、高島屋、健康食品のサントリーウエルネス、やずや、山田養蜂場まで名を連ねていますが、ネット専業のアマゾンや楽天は加盟していません。
宮島 通販市場の伸びは、何と言ってもインターネットの貢献が大きい。ネット市場を牽引するプレーヤーにも、JADMAの存在をアピールし、加入を促すのは当然のことです。通販というのは、資本がなくてもインターネットがあれば成り立つ商売です。大きく成長する事業者はごく一部ですが、裾野はどんどん広がっていきます。今日のネット市場は、個人商店のような会社がたくさん集まって巨大な市場を形成していますが、彼らには「通販」の自意識が乏しい。ネット専業も法的対応や行政機関との関係などで悩みを抱えていると思います。彼らが協会に加わらなくとも、連携を図らなければなりませんね。
――4月に宮島さん自ら厚生労働副大臣に、「サプリメントの有効性、安全性に関する評価の実施を求める要望書」を出しましたね。
宮島 現在、JADMA会員の取扱商品のナンバー1は健康食品(サプリメント)であり、約200社がサプリメントの販売を手がけています。健康食品市場は優に1兆円を超え、消費者に受け入れられていますが、一部に表示や安全性にかかわる問題が見られ、自主的なルールづくりが急務になっていました。そこで協会のサプリメント部会(部会長=成松義文・ファンケル社長)が中心になって会員企業の意見を集約し、昨年6月、サプリメント販売業者が最低限遵守すべきガイドラインを制定しました。さらに今春には、厚生労働省に件の要望書を提出しました。こうした努力が実り、前政権でサプリメントという言葉がマニフェストや厚生労働省のプロジェクトで登場し、その有効性評価が俎上にのぼると期待していました。これほど大きな市場が確立、定着しているのに、いまだに健康食品には消費者の選択基準となる健康表示ができません。これは絶対におかしい。今こそJA DMAの腕の見せ所。新政権でも検討していただけるよう強く働きかけていきます。