南アW杯をしゃぶる貪欲FIFA

アフリカで初のサッカー最高峰の大会。あのブラッター会長が勝手放題で、矛盾が爆発寸前に。

2010年6月号 GLOBAL
by ベンジャミン・ポグランド(南アのジャーナリスト)

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ワールドカップのトロフィーを持つFIFAのブラッター会長(右)と南アフリカのズマ大統領

AP/Aflo

6月11日から1カ月間、32カ国の選りすぐりの代表チームが南アフリカに集まり、サッカーの最高峰、ワールドカップ(W杯)大会の64試合を戦う。開幕を控えて南アはお祭り気分に包まれている。W杯大会のホストをアフリカ大陸で初めて務める栄誉に加え、1994年にアパルトヘイト(人種隔離)完全撤廃後初めて全人種の総選挙を実施、民主主義を勝ち取って16年を経た南アの「いま」を世界に披露するチャンスと、二重の喜びに国中が沸いているのだ。

しかしながら貧困は一向になくならない。数百万人もがまともな住まいや、医療施設、学校 、きれいな飲料水や下水道もないなかで、W杯スタジアムの新築・改修工事やインフラ設備に数十億ドルを投じる必要があるのかと疑問の声があがる。

国際サッカー連盟(FIFA)のゼップ・ブラッター会長の貪欲さにも厳しい目が向けられる。チケット販売を牛耳り、南ア側のオーガナイザーをテンテコ舞いさせて、濡れ手に粟で稼いでいるからだ。

国外からの観客数は推定27万3千人。南アが1カ月で迎える観光客数としては過去最大だが、数字自体は当初予測より22%も少なく、「W杯でひと儲け」という甘い考えは南アの人々ももう持たなくなったようだ。一時はホテルの宿泊料や国内の交通料がハネ上がり、自宅所有者は民宿の宿泊料を稼げるかと浮かれていたが、その宿泊料も下がってきた。実際に観光客の増加が期待できるのは、むしろ大会が終わった来年以降との見方もある。W杯の中継の合間に画面に流れる南アの美しい風景や見どころを世界の視聴者が目にするからだ。

30億ドル荒稼ぎのFIFA

いずれにしても「バファナ・バファナ」(現地語で「少年」)の愛称で知られる南アのチームは、開催国だからという理由でようやくW杯に出場できる弱体チームなのだが、メディアは人々の愛国心を掻き立て、チームの応援一色に染まっている。ブブゼラ(Vuvuzela)と呼ばれる長さ1メートルほどのラッパ型プラスチック製チアホーンをやたらめったら鳴り響かせるのも応援のひとつで、大会中はテレビやラジオでもブブゼラの音色を耳にするだろう。

しかし開催日が近づくにつれ、南アの主要紙は、国民の憤怒の声を取り上げるようになった。週刊のメール&ガーディアン紙は、南ア政府が「差し迫った需要のある学校や図書館、医療施設などの社会基盤の整備をそっちのけにして、数十億ランドをサッカーの殿堂建設に充て、W杯大会関連経費に湯水のごとくカネを使っている。あらゆる点で多額の無駄遣いだ」と批判するとともに、FIFAは今回の南アW杯で大もうけする見込みだと強調した。

「南ア政府がFIFAと交わした(不平等)契約のせいで、FIFAは好き放題。肖像権に関わるどんなささいなことも見逃さず、ホテルや民宿の宿泊料金がFIFA指定の旅行代理店MATCH(本社スイス・チューリヒ)が設定した水準を下回らないよう目を光らせている。要は値下がりさせずに儲けが転がり込むようカルテルを組んでいるのだ」(同紙)

ケープタウンは、望んでもいない場所に数百万ドルもかけてスタジアム工事をさせられ、憤やるかたない。地方紙ケープ・タイムズによれば、「FIFAとブラッター会長は、最初から横暴そのものだった。スタジアムの建設地を決める権利は自分たちにあるといわんばかり。FIFAの公式スポンサーが不利にならないよう現地企業も排除してしまった」と憤る。南アの各都市でみかける行商人も同じように追い払うつもりだろうか。信号待ちのドライバーに小銭をねだる物乞いを収容施設に移す計画はすでに進んでいる。

観戦に南アを訪れる人々も、都市部のはずれにさしかかると、ナマコ鉄板やボール紙、ビニールシートをかき集めた数万軒の掘っ立て小屋が密集する光景を否応なく目撃するだろう。

ケープタウン国際空港の新設ターミナルから車で西方の都心に向かうときにも、観光地のテーブルマウンテンとライオンズヘッドの荘厳な大自然の景色の前に、夥しい数のバラックが見えてきて目を剥くだろう。

南アは94年以来、相当の規模で宅地建設工事を進めてきたが、地方から都市部への流入人口の増加に追いつけないでいる。上下水道のインフラ整備もままならないところに、地方の貧困から逃れてきた人々が押し寄せるから、職はなく、バラック住まいを余儀なくされてしまうのだ。

日立子会社も腐敗の槍玉

大会期間中の治安と警備は保証されているが、犯罪率は恐ろしいほどハイレベルにある。学生の落第率は目に見えて上昇しているし、南ア国民の推定2割がエイズウイルス(HIV)感染者であるという事実も見逃せない。政府は長らくHIV問題にフタをしてきたが、ここにきて2011年6月までに約5千万人の総人口の3分の1近くにあたる1
500万人にHIV検査を実施するという大プロジェクトに乗り出した。しかし、すでに感染が確認された約200万人の患者への治療はどうするのか。

国民の不満は募るばかりだ。与党アフリカ民族会議(ANC)は、議会の3分の2を掌握し、多数の国民の支持を得て民主主義と非人種差別主義の政策を推進してきた。だが、富を得る機会のなかった「持たざる者」は依然多数派だ。アパルトヘイト撤廃の恩恵を受けて豊かになり、高級住宅街に住み、派手な車を乗り回す少数派の黒人層との隔たりを感じるにつれ、投石や自動車のタイヤへの放火などの犯罪行為で怒りをぶつけるようになってしまった。

政府は「ブラック・エコノミック・エンパワメント(BEE)」と呼ばれる黒人の経済力強化策で、積極的に差別是正措置を推し進めてきた。しかし適性や能力を無視して企業や政府機関での黒人登用を優先的に進めた結果、非効率や機能不全、さらには腐敗を蔓延させてしまった。その結果、南アでは現在、毎日のように汚職が新聞で報じられている。

最近、日立製作所の子会社、日立パワーアフリカが槍玉にあがった。南アの国営電力公社エスコムから07~08年に石炭火力発電用のボイラーを受注(総額5700億円相当)したが、同社に対しANCが傘下の投資会社チャンセラー・ハウスを通じて25%出資している事実が明らかになり「利益相反」と批判されているのだ。エスコムとの契約でANCは向こう8年間で最大1億4千万ドルもの利益を得る可能性があるとされる。

4月には、世界銀行が(南アの電力不足解消と再生可能エネルギーの開発に向けて)エスコムの発電プラント建設プロジェクトに約38億ドルの融資を決定したが、頻発する停電の原因はエスコムの失態である。

「馬鹿にするのもいい加減にしろ」とあるコメンテーターが憤慨してこう吐き捨てたのは、日立パワーアフリカの関係者が「初めはチャンセラー・ハウスがANC傘下にあるとは知らなかった」という信じがたい言い訳をしたためである。

著者プロフィール

ベンジャミン・ポグランド

南アのジャーナリスト

1933年、南アフリカ生まれのユダヤ人ジャーナリスト。アパルトヘイト時代に南ア紙に執筆。現在はイスラエル在住。主な著書に『War of Words』など。

   

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