一橋総研が「アジア・コンセンサス」を提唱

鈴木 壮治氏 氏
NPO法人「一橋総合研究所」統括責任者

2010年6月号 BUSINESS [インタビュー]
本誌 和田

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鈴木 壮治氏

鈴木 壮治氏(すずき そうじ)

NPO法人「一橋総合研究所」統括責任者

一橋大学卒業後、三井物産入社。米ペンシルベニア大学でMBA取得。シティバンク、チェースマンハッタン銀行を経て、現在、ICパートナーズCEO。東京都参与などを歴任。

写真/小嶋三樹

――5月27日、中小企業のためのシンポジウム「さいたま会議」を開催されるそうですね。

鈴木 基調講演は、上田清司埼玉県知事に「地域経済における中小企業と行政」をテーマにお話しいただきます。パネルディスカッションでは、内閣官房より「地域産業起こしに燃える人」の称号を受けた関幸子さん、教育プロデューサーの横山征次さん、埼玉大学准教授の木下裕美さん、しんわ経営グループ代表の井上一生さんと「中小企業と地域の活性化」について徹底討論します。「埼玉県を活性化させたい!」とお考えの中小企業経営者や、志をお持ちの方なら、どなたでも無料で参加できます。http://www.h-ri.org/

――石原慎太郎氏が創設者の一橋総研が、なぜ、「さいたま会議」なのでしょうか。

鈴木 一橋総研は、グローバルな視野と情報網、実務経験に裏づけられた「知」のネットワークを構築し、日本および日本人の誇り、生命そして財産を守る戦略を提言するため、1995年に設立された民間独立のシンクタンクです。これまで財政・金融、外交防衛、エネルギーなど21の専門部会を通じて政策提言を行い、私もベンチャー・中小企業戦略部会のリーダーを務めてきました。

全雇用の70%を占める中小企業は、まさしく国民の生活を守る社会的なインフラです。にもかかわらずグローバリゼーションの波に乗れず、2002~07年の好況期に、グローバル企業が年率9.7%の成長を遂げたのに対し、中小企業はずっとマイナス成長でした。

雇用と地域経済を支える中小企業の活性化なくして日本経済の復活はあり得ません。しかも、単独では生きにくい中小企業こそ、市場原理主義を超える新たな理念として我々が訴えてきた「共生型資本主義」を体現する存在なのです。手はじめの今回は埼玉県で活躍されている中小企業経営者と、彼らと結びつきの強い企業、さらには団体・個人の方と討論し、日本再生の第一歩を踏み出せたらと思います。

――「さいたま会議」の特色は?

鈴木 官の支援を受けながら、異業種交流会を開いたり、事業マッチングを行う団体はいくらもありますが、「さいたま会議」はまるで違います。我々は優勝劣敗の市場原理主義に替わる「共生経済システム」の理念を掲げ、中小企業のための地域パワー、すなわち企業仲間、大学・教育機関、行政、税理士などの専門家、地域金融機関、市民グループなどのパワーを結集したいのです。

よい例があります。米国コロラド州リトルトン市は90年から05年にかけて「エコノミックガーデニング」という手法を用いて地元企業を育て、地域の中小企業の雇用者数を2・3倍、市税を2.9倍にすることに成功しました。大企業誘致に頼らず、中小企業が主体性を持って、お互いにオープンなパートナーシップを築いたことが地域活性化をもたらしたのです。

私は財政規律・民営化・市場原理主義を標榜するワシントン・コンセンサスに代替する考え方として、社会と企業が共生する「アジア・コンセンサス」を唱えています。そこでの企業評価は社会貢献や環境への配慮を重視します。公的福祉制度は、市場原理が生み出すリスクとリターンのアンバランスの当然の是正策として位置づけるべきです。

さらに、アジア域内国際分業(共生)を支える「交易」「人材交流」「知的所有権保護」「商品安全基準などの標準化」を推し進め、インフラ構築やエネルギー資源確保において、アジア諸国、企業、公的機関、市民団体などとさまざまなレベルで連携を図っていきたいと思います。地域密着型で雇用を支える中小企業は、アジア・コンセンサスを体現する地域経済ガバナンスの主役であり、その経験はアジア進出に際して生きるものです。「さいたま会議」では、一橋総研のネットワークを活用して、中小企業のアジア進出支援にも力を入れます。

   

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