「ツイッター」広告はお邪魔虫か

鳩山首相ら1億人超す“つぶやき”メディアがついに広告。柳の下に「二匹目のグーグル」は。

2010年6月号 DEEP

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ツイッターで表示されたスターバックスの広告

“つぶやき”で銭が稼げるか。

小鳥のさえずりを意味する「ツイッター」――いまもっとも旬なネットのソーシャルメディアが4月13日、ついに広告配信を始めた。米国で始まった「Promoted Tweets」で、ツイッターのサイト上で検索すると関連広告が表示される。最初の広告主にはスターバックスや家電量販店のベスト・バイなどが名を連ねた。

2006年7月のスタート以来、4年足らずでユーザー数が1億500万人を超え、今も増殖中のツイッターは、「ミニブログ」「ブログとチャットの中間的サービス」などと説明されている。書き込みに最大で140文字の上限があり、短文をさえずるように発信するメディアなのだ。

流れるのはテキストだけだから、グーグルやユーチューブなどより設備投資負担が軽くて済み、運営主体のツイッター・インクは広告による収益化(マネタイズ)を急いではいなかった。一方的に独り言をつぶやくばかりか、他ユーザーのつぶやきにリプライ(返信)したり、リツイート(RT、再送信の意)する機能で1対1、1対多、多対多といった多元的な双方向性を実現し、ユーザー主導で伸びてきたサービスだけに、ユーザーに嫌われる押しつけ広告はしにくいという事情もあった。

スパム的広告には猛反発

しかしその人気は誰しも垂涎の的。当初はシリコンバレーあたりのギーク(オタク)が熱狂するサービスにとどまっていたが、昨年の夏ごろから日本でもブレーク。鳩山由紀夫首相(@hatoyamayukio 編集部注=@のあとはツイッターのユーザー名)ら政治家や企業トップまでもが、意見や考えをつぶやきだしている。

自民党の谷垣禎一総裁も当初「つぶやきは好きではない。ものを言う時は論旨明快に言いたい」と首相に噛みついたが、「『なまごえ』をうかがう有効なツールとの熱心な勧めがあり」と翻意、4月20日にツイッターデビュー(@Tanigaki_S)した。

ただ、ツイッターには有益な発言よりも「接するだけ時間のムダ」とも思える身辺雑記的な私語が溢れている。「せっかくつぶやいても誰も反応してくれない。虚空に向かって話すみたい」と失望する人や「アカウントはつくったけれど放置したまま」の冬眠ユーザーも多い。

とはいえ、指をくわえて見ている手はないと、宣伝媒体に利用しようとする企業も出てきた。企業の広報部などがツイッター上にアカウントを設け、情報をつぶやいて流すのだが、「続きはツイッターで」というキャッチコピーを挿入するテレビCMまで登場している。

ただ、ツイッターの場合、これまでのウェブやブログと同じ感覚で利用しようとすると、とんだ大失敗をすることになる。1対多の情報伝達は可能でも、従来とはまったく性格が異なるためだ。

今年2月5日、UCC上島珈琲がこの特性を理解しないままツイッターを利用して躓いた。特定のキーワードが入った他ユーザーのつぶやきをBOT(ボット)と呼ばれるプログラムで自動収集し、それに自動で宣伝メッセージをリプライしたのだ。しかも複数のアカウントを使い分けて同一のつぶやきを送信したため、スパムメールみたいになって「利用規約に反している」などとツイッター上で批判の嵐となった。ことの重大性に気づいた同社は、開始から2時間程度で送信を停止、同日付でウェブに「お詫び」を出してようやく事態を収拾している。

実はこういうスパム型のメッセージ送信は、ツイッター族が最も嫌うところ。ツイッターでは、原則として自分のフォロワー(閲覧登録者)のつぶやきだけが閲覧できる仕組みなので、自分の発言にリプライされる形で宣伝めいたスパムが紛れ込んでくると、たちまち目についてしまう。それが興味のない広告情報なら、拒絶反応はいっそう強まる。 

実際、宣伝目的で他のユーザーをフォロー(閲覧登録)するアカウントも見受けられるが、フォローされてもフォローし返さなければ、そのユーザーは宣伝を目にすることはない。それでもうるさければ、特定のアカウントをブロックして一切のコミュニケーションを遮断することもできる。つまり、ツイッターには雑音を排除できる仕組みが備わっており、あくまでも「メッセージの受け手が主役」(ツイッターのウェブページより)のメディアなのだ。このあたりが、しばしば「炎上」が話題になるブログとは異なる部分だろう。

このようにマスメディア型の方法論が通用しないメディアだけに、企業や広告代理店は利用方法を考えあぐねているふしがある。そのため、ツイッターのビジネス利用事例の多くは、「顧客の意見を吸い上げる」「顧客との信頼を築く場」 といった、コミュニティーを構築したうえでの販促利用の提案に終始している。

マスコミもツイッターとどのように向き合っていいのかわからない様子だ。そんななかで、毎日新聞が
「MAINICHI RT」(RTはリツイートの意味)という日刊タブロイド紙を6月1日に創刊する。新聞離れした若者を狙い、ツイッターなどを利用して読者の声を反映するという触れ込み。だが、ツイッター上には「やっぱり紙かよ」などと嘲笑するつぶやきも流れており、スタート前から先行きが危ぶまれる。

取材現場の報道記者にも少なからず影響を与えている。本来なら政治家や企業のトップクラスと個人的な関係を築き上げたうえで、夜討ち朝駆けや携帯電話などで直に聞き出してきた核心的裏コメントを、取材先の本人がツイッター上でつぶやくような例も出てきたからだ。「ブログは構えて書く感じなので公式コメントっぽくなるが、瞬間的な思考を文字にするツイッターのつぶやきは本音が出やすい」と語る識者もいる。

「ユーチューブ」の二の舞も

しかし、当のツイッターも広告による収益化をどうするか考えあぐねていた。運営費用はベンチャーキャピタルから調達した約1億6千万ドルの資金でまかなわれている。これまではグーグルやヤフーなど検索エンジンへのデータ提供や企業向けアカウント程度で、目立った形で収益化を図ってこなかったが、ここまで巨大化すると、広告収入を柱にしない限り持続可能性(サステナビリティー)を保てなくなる。

4月に発表した広告モデルは、検索キーワードに連動するもので、グーグル・アドなどに似ている。プロモーテッドには「広告」と「昇格」の二つの意味があり、よく考えた命名だが、広告もテキストだけで字数も140字以下。十分な収益を上げられるかどうかは未知数だ。そもそもウェブのように、ツイッター上を検索して情報を探す能動的なユーザーがどの程度いるだろうか。自分でつぶやく以外は、フォローしている他ユーザーの発言の閲覧に終始している場合が多い。ツイッターはリアルタイム性の高い受動的なメディアだけに、グーグルほど媒体価値があるかどうかは疑問が残る。

かつて急成長した動画サイトの「ユーチューブ」がそうだった。ユーザー数は急激に増えたが、広告収入だけでは運営を続けることができず結局はグーグル傘下に。そのグーグルの力をもってしても、ユーチューブは黒字化していない。ツイッターがユーチューブ同様、豊作貧乏に終わらないことを祈るばかりだ。

   

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