ハゲタカファンドが狙いつけた日立製作所

2010年1月号 BUSINESS

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2010年に創業百周年を迎える日立製作所。総合電機の名の下に総花的経営を続け、毎年のように赤字を垂れ流し、財務基盤は痩せ細った。乾坤一擲の公募増資に打って出たものの、1株利益の希薄化を嫌って株価が急落。もはや資本調達も思うに任せない。そんな満身創痍の巨艦企業に、外資系投資ファンドが狙いをつけたとの情報が、証券筋を飛び交っている。

日立は09年3月期に国内製造業で最悪の7873億円の最終赤字に陥り、今期も2300億円の赤字見通しだ。その原因はリーマン・ショックだけではない。「冷蔵庫から原発」まで戦略性もなく手を広げた巨大組織の機能不全に、覆いかぶさるように世界同時不況がやって来たのだ。

09年4月に、元副社長の川村隆氏が社長として本社に返り咲き、「社会イノベーション事業」を核に事業の選択と集中を進める方針を掲げたものの、めざす姿ははっきりしない。同じく09年3月期に3435億円の最終赤字に陥ったライバル東芝は、6月に普通株と劣後債で5千億円を調達。原発や半導体といった世界的に強みのある分野に経営資源を傾斜配分する事業戦略を推進し、マーケットの評価を高めた。

それに比べ日立の川村社長は、「社会イノベーション事業」を提唱するが、その中身は電力、環境、情報、交通システム、電池などと幅広く、焦点が絞り切れていない。しかも、打ち出した具体策は日立マクセルなどグループ5社の完全子会社化ぐらい。「迫力も説得力もない」(証券アナリスト)。そのくせ11月に30%以上の株式価値の希薄化を招く公募増資を発表。エクイティストーリーなき増資にマーケットは拒否反応を示して株価は急落した。

11月11日の株価299円台を前提に3100億円余りを手にする腹積もりだったが、公募価格は230円と想定の2割も下回り、調達額が計画より600億円も少ない結果となった。証券関係者は「この有り様では、10年中に2度目の増資に追い込まれる」と見る。

前述のとおり東芝は財務悪化に追い込まれたものの景気の回復局面を捉えて夏前に増資を敢行。新株を発行したにもかかわらず株価は上昇した。日立も東芝と同時期に資本増強の必要性に迫られながら、ずるずると半年も遅れ、その間に事業環境もマーケットの地合いも悪化してしまった。経営的失態は明らかだった。

年末に2500億円の増資をしたが、それも今期末の通期赤字(2300億円)の穴埋めに消える。自己資本比率(9月末が10.9%)は危険水域とされる10%前後であり、将来を見据えた研究開発や設備投資の余力などありはしない。こんな日立が再び増資を強行したら、まともな投資家はそっぽを向くに違いない。

こうした中で、ある大手証券の幹部は「欧米の投資ファンドが日立に関心を示している。すでに米KKRなどが触手を伸ばしている」と明かす。

技術力は世界トップ級だが、商売が下手で財務基盤の危うい日立は「ハゲタカ」にとって絶好の獲物。「ファンドで増資を引き受け、過去のしがらみを排したリストラを断行すれば、転売先はいくらでもある。日立にはあらゆる事業分野で最高レベルの技術的な裏付けがあるだけに、個別事業やグループ会社の切り売りも可能。まさにハゲタカ好みの巨艦だ」(前出の大手証券幹部)

グループ解体のシナリオはいくつも描ける。クジラのような日立本体を呑み込まずとも、有力なグループ会社が対象なら投資負担も小さくて済む。日立には、日立建機や日立金属など世界的競争力のあるグループ会社がある。いずれも株式を上場し、独立心が旺盛で、決して親会社の言いなりにはならない。その一方で日立物流など売却の噂が絶えない会社もある。妙味は尽きない。

ハゲタカにとっては世論を刺激するTOB(株式の公開買い付け)だけが能ではない。「複数の投資銀行が日立の有力グループ会社にMBO(経営陣による買収)を水面下で提案している」との風評も立っている。

迷走する親会社に愛想を尽かした子会社がファンドからMBO資金の提供を受け、グループ離脱を画策する事態も考えられる。ちなみに日立の時価総額は8千億円(12月10日現在)を割っている。

   

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