「地デジ延期説」が出る胸突き八丁

あと2年だが、普及台数はまだ目標の5割。CATVでアナログ延命など、総務省もぐらつく。

2009年7月号 BUSINESS

  • はてなブックマークに追加

イメージキャラクターに起用した草彅剛逮捕に、鳩山邦夫総務相の過剰反応コメント、そして新キャラ「地デジカ」説明文丸写し騒動と、ここにきてネガティブイメージを振りまいている地上デジタル放送(地デジ)。しかし、これら一連の騒動以上に放送関係者を困惑させているのが「ケーブルテレビ(CATV)のアナログ放送延長策」である。

5月25日に公表された総務省情報通信審議会「地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割」第6次中間答申では、2011年7月24日以降の視聴者救済策の一環として「デジアナ変換サービスの暫定的導入の促進」が示された。簡単にいえば、アナログ放送終了後も、CATVを通じて視聴者がアナログテレビを利用できるようにする、というアイデアだ。

「今さら」とCATV事業者

真っ先に困惑の表情を浮かべるのは、いきなりセーフティーネット役に指命されたCATV事業者だ。「スケジュールにあわせて、無理を伴うデジタル放送設備化を進めてきたのに、今ごろになってアナログ放送を延長せよとは厳しすぎる」(地方都市のCATV事業者)

地上デジタル放送化の効用は、かねて総務省が喧伝しているとおり「電波の有効利用」にある。CATVにおいても例外ではなく、アナログ放送再送信が終了すれば、空いた伝送帯域で別サービスを展開できることになる。CS(通信衛星)放送のハイビジョン化や、さらなる多チャンネル確保に活路を見出したいCATV事業者としては「なぜ今さら」という気分になるのはやむをえない。

情通審の答申では、こうした点に配慮して「09年度内に運用期間(終了時期)を決定」「導入にあたっては国が支援を検討」などの方向を打ち出しているが「場当たり的にCATV延長論を持ち出してきた以上、(特に運用期間決定については)信用しきれない」(前出)と不安をあらわにする。当の総務省も「支援内容は検討中」「時期については早期に示す」とあいまいさを残す。

総務省のスタンスが「法令などで強制せず、あくまでお願いする立場」としていることも、CATV事業者を悩ませている一因だ。「実施する、しないを事業者側に一任するといいつつ、実際には派手に報道発表している。これで(自社が)実施しなければ、単に視聴者から非難されるだけ」(前出)と頭を抱える。

また、放送局を含む周辺からは「総務省の方向性が、11年7月24日完全移行という大前提を覆しかねない」という声もあがりはじめた。

「残り2年という段階でこうしたぐらつきを見せるのは、放送事業従事者、国民双方にとってマイナス。これを契機に『あるいは11年7月24日という期限は延期されるかもしれない』という空気が広がってしまうことを恐れる」(在京放送事業者)。ようやく波に乗りかけた受信機普及にも悪影響を及ぼす可能性がある、と指摘する。

受信機メーカーも不満を口にする。「これではいつまでたってもアナログ放送受信機能を取り外せない。デジタル放送専用機になれば、受信機製作コストをさらに抑えることが可能なのに」(大手受信機メーカー)。終了時期が本当に明確にならなければ安い受信機はつくれない、というわけだ。

総務省情報流通行政局地上放送課は「(CATVのデジアナ変換は)受信機継続使用の要望や買い換えの負担平準化、廃棄・リサイクルの平準化が目的」と言う。あくまで家庭内の2台目、3台目のテレビ買い替えや一斉切り替えに伴う廃棄集中などの混乱回避が目的であり、受信機普及の遅れをカバーすることを主目的としているわけではないというのだ。

では、実際の普及状況はどうか。

社団法人の電子技術産業協会(JEITA)によれば、4月末の速報値で地上デジタル放送用受信機の出荷台数は5087万台と5千万の大台を突破(チューナー内蔵パソコン、CATV用セットトップ・ボックスを含む)。先の情通審中間報告においては、世帯普及率60.7%(3035万世帯相当、3月末時点)で、目標値(62%)にはまだ及ばないものの、50%にも到達していなかった昨年12月の段階を考えると堅調さを取り戻しつつある。

しかし、11年7月24日時点での目標台数は1億台であり、普及世帯数は5千万世帯である。実際の数字は台数でまだ5割、世帯数で6割に過ぎない。先の中間報告で「今後の目標値カーブは急勾配」とされているとおり、実際グラフ化してみると驚くべき急勾配だ。

ある放送事業関係者は「終了間際の駆け込み需要を見込んでいるのだろうが、過去に例をみないほど楽観的な普及予測」と指摘する。

受信機の劇的な値下がりが進んで、08年は約1500万台を出荷。これは単年の最高であり、1月を除くすべての月で100万台以上の出荷を記録している。最高値は年末商戦期にあたる12月の約226万台で、こちらも単月出荷台数としては過去最高だった。北京五輪商戦に絡む6~7月が突出した数値でないこと(6月132万台、7月125万台。08年全体の月平均は約126万台)を踏まえると、国民全体が「テレビ買い替え」に動き出したともとれる。

アメリカの二の舞いも

総務省が昨年12月に示した「デジタル放送推進のための行動計画」(第9次)では、3月末時点での普及を4900万台、6月末に5400万台、9月末に5900万台で、12月末には6400万台を目標としている。先に示したとおり最新の4月末速報値が約5千万台だから、12月末の目標値を達成するためには、残り8カ月で約1400万台、月平均では08年を大幅に上回る175万台ペースが求められるのだ。

さらに11年7月24日時点で1億台を達成するためには月平均190万台の出荷が必要になる。5千円以下の安価なチューナーの投入が待たれるところだが、先の中間答申でも依然として「(簡易チューナーの)実現に向けて一層環境を整備すべき」と表記されているあたりが心もとない。実際「本来ならば、すでに簡易チューナーが発売されていなければならない段階」(放送局関係者)とする指摘は少なくない。

関係者を不安にさせているのは、今年2月のアナログ放送終了を6月12日に延期した米国の例。実は06年完全移行が当初の予定であり、再々延期でやっと完全移行した。

むろん、総務省は「(米国のようにならないよう)予定どおりアナログ放送を終了させるために全力を尽くす」としているが、CATVデジアナ変換が初めて話題にのぼった今年1月には「米国でも採り入れている仕組みであり、緊急措置というわけではない」と説明していた。

米国は手本か、それとも反面教師なのか――。

   

  • はてなブックマークに追加