2009年6月号 連載 [LOCAL EYE]
国は地方自治体に対し、09年秋までに民間企業並みのバランスシート(貸借対照表)やキャッシュフロー計算書(資金収支計算書)を作成するよう求めてきた。だが、肝心の基準は統一されておらず、このままでは自治体間の比較もままならない。特に一足先に独自の方式で財務書類を作成した東京都は、総務省が用意したモデルには見向きもしない。それどころか石原慎太郎知事が「国の方式は国際会計基準とかけ離れており問題がある」とし、「問題点を検証する白書の発行やシンポジウムの開催など、国が会計基準の標準化に取り組むよう運動を展開したい」と対決姿勢を鮮明にする有り様だ。
東京都を勢いづかせているのは、東京都方式の採用に傾いている大阪府である。橋下徹知事は4月下旬、「石原知事と連携してやっていきます」と宣言した。実は橋下知事は、早くから東京都方式を念頭に、東京都へのヒアリングなどを事務方に指示していた。ところが副知事や財政課長といった幹部ポストを総務省からの出向者が占めていた大阪府の担当者は、なかなか動こうとしなかった。これに業を煮やした橋下知事は、4月の人事異動で総務省出身の幹部を含め、担当者を軒並み交代させた。慌てたのが総務省だ。「大阪府は総務省方式」と見ていたから、瀧野欣彌事務次官が「財務書類は(自治体間の)横比較も必要なので、できるだけ総務省のモデルを使ってほしい」と訴える事態に。
ただ、総務省の方式も二つあり、横比較などできない。資産評価を精緻にやるか、簡便にすますかといった捉え方をされているが、そもそもの設計思想がまったく異なる。しかも日本公認会計士協会や全国知事会からは、税収などを企業の売り上げに相当する「収益」に含めないのは「おかしい」と指摘される始末。このままではだれも利用できない欠陥品の作成に、膨大な労力を割くことになりかねない。石原知事はかねて、自らの成果として「公会計システムの導入」を挙げている。仮に東京都方式がデファクトスタンダードになるようなことがあれば、高笑いは止まらないだろう。