2009年2月号 BUSINESS [ビジネス・インサイド]
価格が決まらないまま製品を納入し、値切られて仕入れ価格を割ってしまうのに、決算上は少ないながらも、それなりの利益が出る。こんな不思議な商売を、長年にわたって続けてきたのが医療用医薬品の卸業界だ。しかし、ここに来て厚生労働省がその正常化を強く呼びかけ始めた。
医薬品卸の奇妙な商慣習は、製品を大量に販売した場合などに、メーカーが卸に支払うリベートが可能にするものだ。日本医薬品卸業連合会の会員調査によると、医療機関への納入価格から仕入れ値を差し引いた医薬品卸業界の売買差益(以下、売差)は、04、05、06年と3年連続で約1~2%のマイナスだったが、メーカーからのリベートが各年10%近くもあり、卸はその差し引きで約8%の利益を出している。
医療機関もこうした事情をよく知っているから、卸の提示価格を全く信用せず、納入価格が底に下がるまで、長い時には1年近くも交渉を引き延ばす。医薬品は人命にかかわるだけに供給を止めることはできず、卸は価格が決まらなくても、製品を渋々と納入し続けるほかない。
リベートはどの業界にもあるが、それがあまりに大きいと、メーカーが卸の価格政策に影響力を持つことになり、独禁法上の問題が出てくる。リベート依存が激しく、「売差マイナス」が常態化している医薬品卸の現状は、他業界では考えにくいことだ。
また、価格が決まらぬまま、とりあえず製品を納入する「未妥結、仮納入」の状態が長引くのも医薬品業界独特の慣習だ。
昨春から厚労省が「リベートの縮小」「売差マイナスからの脱却」「未妥結・仮納入の是正」の指導に乗り出し、その効果が徐々に表れているようだ。とはいえ長年にわたって医薬品業界に根を張った慣習だけに、その成否はメーカー、卸、医療機関の3者が、どれだけ本気になるかにかかっている。