2007年6月号 BUSINESS [ビジネス・インサイド]
「携帯電話への新規参入を断念」と報じられた通信ベンチャーのアイピーモバイルが一転、不動産会社の森トラストの傘下で参入準備を継続すると表明してから1カ月。しかし、アイピーモバイルの行く手は視界不良のままだ。
通信業界とは畑違いの森トラストがなぜ、救いの手を差し伸べたのか――。森章社長の亡き兄が、アイピーの技術顧問を務める中川正雄・慶大理工学部教授の恩師だったという縁頼りに、土壇場で、首の皮一枚でつながったというのが真相だ。アイピーの杉村五男社長が秘密裏に進めた「延命策」だったため、直前まで事情を知らされていなかった幹部もいた。事前の相談がなかったことにへそを曲げた主要株主は、すでに派遣役員を引き揚げている。
参入に向けて500の基地局を設置する計画だったが、森トラスト傘下入りを発表した4月10日時点で、工事が完了しているのはわずかに7カ所。関東圏で事業を進めるのに必要な資金は600億円というが、資金調達も不透明で、綱渡りの事業運営に変わりはない。10日の会見には森トラストの関係者は全く姿を見せず、いらだつ記者団から「実は何も合意していないのじゃないか」との質問まで飛び出した。
総務省は、周波数の割り当てを受けてから2年以内の事業開始を求めている。残された時間はあと半年。日本製の端末を準備するには、すでに時間切れとの見方も出ている。「さらなる増資スキームが組めなければ、もう終わりだ。あまりに稚拙な事業計画だったということか」とは関係者の弁。