「監視カメラ大国」英国不審な仕種だけでズーム

2007年6月号 GLOBAL [グローバル・インサイド]
by ゴードン・トーマス

  • はてなブックマークに追加

イスラム過激派テロの標的になっている英国で、歩道や競技場など大勢の人がごった返す公共の空間で不審者を識別し、立ち去るまで追跡して撮影する監視カメラ・システムが、ロンドンなど主要各都市に設置された。防諜機関MI5が、国際テロ組織アル・カイダやそのシンパ組織の要員の追跡のために導入したもので、その名も盗聴器を意味する「バグ」。

一基1万ドル(約120万円)と高額な「バグ」は、最新鋭の衛星技術と連動しており、内蔵された八つのレンズでパノラマ撮影が常時可能だという。テロリストの可能性を示す50種類の不審な行動パターンを見分け、不審人物を絞り込むと九つ目の内蔵レンズが撮影を開始する。カメラはその不審者をズームで大写しにしたうえで、歩道を歩いているところ、建物への出入り、車で現場を立ち去るまで連続して撮影し続けるという。不審な動きを見せるグループも識別可能という。

イスラム系住民が多いロンドンの一部地域やブラッドフォード、ルートンなどの街角に設置した鉄柱の上部に「バグ」を取り付けて試験運用したところ、高感度のズームレンズと常時作動している画像処理システムのおかげで、排ガスなどで見通しが悪い場合でも鮮明なアップの画像が撮れた。

撮影した画像データは暗号化され、各地のMI5の支局に配信される。MI5はそれらの画像をスパコンに保存すると同時に、過去に撮影した画像データとつき合わせ、結果を対外諜報機関MI6(SIS)と国防省、地方警察に報告する。米国家安全保障局(NSA)にも、イングランド地方北部の支部を通じて同じ情報が届けられ、中央情報局(CIA)に送信される。

1年も経てば「こわばった表情」や「こそこそした動き」で不審者を見分けることも可能になるとされ、ラフバラー大学では自爆テロ犯を事前に識別するプログラムの開発も進んでいる。

しかし、個々人の微細な仕種まで捉えるシステムが導入されるとなると、「市民の安全のために本当に必要なのか」「市民の生活を脅かす可能性がある」と心配する声があがっているのも事実だ。警備コンサルタントJ・P・フリーマン氏によると、英国で24時間作動している監視カメラは420万台。「日本を含むアジア全体(300万台)や、オーストラリア、アフリカ、中東の3地域を合わせた200万台をはるかに上回る」という。監視国家の危惧もあながち杞憂ではない。

   

  • はてなブックマークに追加