簿外債務や架空取引、元暴力団組長の経営者……。不祥事のオンパレードで、「第二のライブドア」も出現か。
2007年4月号 BUSINESS
大証ヘラクレスに上場する企業で、粉飾決算や架空取引などの不祥事が後を絶たない。実像とはかけ離れた業績を投資家に示して株価を釣り上げ、それをもとに資金調達やM&A(企業の合併・買収)に走る経営者たち。こうした「錬金術師」を財界や学者も持ち上げている。
ナスダック・ジャパン(現ヘラクレス)上場から東証2部に昇格したIT企業「アイ・エックス・アイ(IXI)」。多額の簿外債務が発覚し、今年1月に経営破綻した。実際には商品は動かないのに、伝票や金銭のみが何社もの間でやり取りされる架空の循環取引で売上高を大幅に水増ししていたとして、今年2月、元役員に対する特別背任の疑いで大阪地検が強制捜査を始めた。複数企業間で伝票を回し続ける架空取引グループのメンバーには、日本IBM、東京リース、ネットワンシステムズ、デジタルデザインなどの有名企業や上場企業も関わっていた模様だ。
「架空取引は一度味を覚えるとやめられない。麻薬のようなもの」と話すのは、あるIT企業の営業担当者。成長を担保に資金を集めるITベンチャーでは、売上高至上主義が蔓延している。架空取引を使えば、簡単に数字を作ることが可能だ。実際、IXIが味をしめたのは、ソフト開発の「メディア・リンクス」(ヘラクレス上場、後に上場廃止)による架空取引に参加した際とされる。メディア社は2004年、100億円以上の売上高の捏造が発覚し、社長らが逮捕された。
昨年4月に破綻したIT企業「アドテックス」もヘラクレス上場。元副社長が今年2月、資産隠しの民事再生法違反で逮捕されたが、世間を驚かせたのは、この人物が山口組系の元暴力団組長だったことだ。さらに、ヘラクレス上場のシステム会社「ネクストウエア」の元営業部長が今年1月、架空取引で会社に損害を与えたとして大阪地検に逮捕された。この部長は、別のIT企業からの転職組だが、以前から架空取引を繰り返していたと見られ、IT業界に浸透する「病理」の深さをのぞかせた。
関西では、IXI事件は別の理由でも大きな波紋を呼んでいる。子会社の「グローバルウイングス」(本社・大阪市)の存在だ。関西国際空港を拠点にビジネスジェットの就航を目指すベンチャー企業で、昨年11月には国土交通省から運航認可を取得したばかり。中国向けを中心にチャーター便の運航を目指している。
需要が伸び悩む関西空港の活性化につながるとして、関西財界の評価は高い。大阪商工会議所(会頭=野村明雄・大阪ガス会長)は、06年の「大阪活力グランプリ」特別賞に選んだ。社長はIXI出身で、IXIの社長も取締役に名を連ねていた。証券業界では「壮大なホラビジネスではないか」と囁かれ始めた。
関西財界では04年にも関西ニュービジネス協議会(会長=井植敏・前三洋電機会長)が、「大賞」に選んだ生花販売ベンチャー企業の「ハナ・プレンティ」が受賞内定直後に破綻し、関係者が大恥をかいた「前科」がある。
日本最大級の社会人大学院といわれる大阪市立大学・創造都市研究科には、起業家育成コースがある。同コースでは一時期「上場しなければベンチャーではない」と社会人学生を教育し、拝金主義を煽っていたことがある。
同コースに社会人学生として学んでいた公認会計士が04年、船井電機の船井哲良社長の保有株を巡る恐喝未遂で大阪地検に逮捕された。関係者によると、大学院での教育の影響を受けたのか、この公認会計士は「大学院を早く株式会社化して、上場させましょうと教員を煽っていた」という。同じく社会人学生で、ベンチャー支援の功績で経済産業大臣賞を受けた大阪市外郭団体職員は、副業のコンサルタントで億単位の収入を申告していなかったため、大阪国税局に摘発された。
ある証券会社幹部は「ヘラクレスは上場審査が甘く、不祥事の『予備軍』はほかにもある」と指摘。監査法人関係者の中で「問題企業」「第二のライブドア」とみられているのが「ビービー(BB)ネット」(本社・大阪市)だ。2000年に会社設立、02年にはナスダック・ジャパンに上場を果たした。
ベンチャーに詳しい公認会計士は「私なら、BBネットの決算書は怖くて判を押さない」と断言する。ライブドアと同じ港陽監査法人を使っていたことも「疑惑」の目が集まる理由のひとつだ。
BBネットは、製菓業者などに材料や商品などのネット調達を支援するシステム販売のビジネスで知られる。「自前で循環取引をしているようなもの」と指摘する関係者もいる。
BBネットと取引のある経営者がその仕組みを解説する。「BBネットが中小企業に対して、例えば1千万円出資し、出資を受けた企業がその1千万円でBBからシステムを購入する手法です。出資したカネを売り上げ計上しているのと同じで、売り上げ計上を認めなかった監査法人もあるようです。怪しげです」
BBネットは、システム開発会社や外食チェーンなどの買収戦略を展開。05年には卸売市場の「熊青(ゆうせい)西九州青果」も買収した。「本業に実体がないので、企業買収で売上高を増やそうということではないか」(経済部記者)との見方もある。「関西ベンチャーの旗手」を気取り、講演会などで派手に立ち回る田中英司社長の姿は、ちょうど「ホリエモン」にも重なる。
ライブドアとの類似点は、中小企業向けビジネスローンや証券などの金融関連会社を持っていること。かつて子会社だったウェル・フィールド証券は、ライブドアで有名になったMSCB(転換価格修正条項付き転換社債)のプロとして知られる。
中小企業向け融資の子会社ビービーネットファイナンスは今年1月、相次いで金融機関との提携を発表。まずは、経営危機のオリエントコーポレーションと業務提携。そして韓国の銀行に売却が噂される日本振興銀行との業務提携も決めた。この時に一部の媒体が「日本興業銀行」と書き、「とんでもないブラックジョーク」(金融関係者)と失笑を買った。また、2月28日にはBBネット本体が日本振興銀行からの出資受け入れを発表した。
BBネットは06年7月期連結決算で33億円の当期赤字になった。投資先の中小企業の株式の時価評価を行った結果、特別損失が発生したためだ。得意としてきた「投資ビジネス」が足を引っ張った形だ。
BBネットは本誌の取材に対し、「監査法人に決算を認められなかったことはない。日本振興銀行との提携は、中小企業支援という事業目的が一致したため。青果市場の子会社化も、外食支援事業との相乗効果があるからです。第二のライブドアと言う人がいることも知っていますが、似た部分を探されるのは仕方ない。しかし、当社は実体のある取引を行う実業の会社であり、(当社の行為に)犯罪性は全くない」などと回答した。