2007年3月号 POLITICS [ポリティクス・インサイド]
福井俊彦日銀総裁は追加利上げを見送り続け、求心力が急速に低下した。1月の金融政策決定会合ではタカ派3人が議長案に反対票を投じる反乱を許したほか、竹中平蔵経済財政相(現慶大教授)に内閣府政策統括官として仕えた岩田一政日銀副総裁を抑え込めず、「総裁は1月利上げ断念に追い込まれた」(日銀幹部)と揶揄される。日銀のOBからは「村上ファンドへの出資発覚の時に辞めるべきだった」との声が上がり、永田町・霞が関からは来年3月に任期満了を迎える福井氏の後任に竹中氏が就任するとの観測が流れ、日銀マンは震え上がっている。
岩田副総裁は金融政策ではハト派のエコノミストとして知られ、昨年の量的緩和とゼロ金利の解除でも慎重な姿勢をとっていたが、最終的には総裁を補佐する立場から執行部の団結に協力した。しかし、竹中氏とのパイプが太い中川秀直自民党幹事長が日銀攻撃を強める中、岩田氏と福井総裁の間の距離が広がったようだ。
竹中氏は「中央公論」2月号に「日本銀行亡国論」を寄稿したほか、テレビ出演を通じて盛んに日銀攻撃を展開。外資系証券会社の新春セミナーでは「インフレでもないのに、戦後最大の引き締めを行うたいへん珍しい国」「福井総裁を経済財政諮問会議に入れないほうがよい」と日銀の利上げ路線を批判。その一方で、インフレターゲット(物価目標)導入を訴え、次期総裁への意欲を強くにじませた。その返す刀で「消費税率引き上げは必要ないと安倍内閣は宣言すべきなのに、財務省が言わせないよう根回しをしている」と財政当局もバッサリ。これは、元財務事務次官でポスト福井をうかがう武藤敏郎日銀副総裁への面当てだろう。
参院選後も安倍政権が続き、中川氏が権勢をふるうなら、「竹中総裁」は一段と現実味を帯びるはずだ。自民党有力者は「中川氏が頭に描く次期総裁は、物価目標導入と成長目標達成への協力者」と言い切る。竹中氏や伊藤隆敏・経済財政諮問会議民間議員(東大大学院教授)が念頭にあるのは間違いない。万一、竹中氏が総裁の座を射止めれば、日銀プロパーは副総裁(定員2)からも干される公算が高い。